窓ぎわ橙の見える席で
目を見開いて驚いている私を、彼は面白そうな顔で微笑んでいた。
その顔を見ていたら、淡い記憶の片隅から1人の男の子が目の前に飛び出してきた。
スッキリとした黒髪の、海明高校の制服を着た男子生徒。
手足がひょろっと伸びていて、細身の体型。やや猫背。
その人は制服を着崩したりすることもなくしっかりマニュアル通りに着こなし、肩には学校指定の鞄を掛けていた。
『宮間さんって、放課後はいつもグラウンドを見てるよね』
『僕は恋愛には興味が無いんだ』
『恋愛よりも生き物を見ていたい。ひたすら見ていたい』
『うちで飼ってる猫の名前は、ミドリっていうんだ。ミドリムシから取ったの』
『今からカマキリの体内からハリガネムシを取り出すけど、グロいから見ない方がいいと思うよ』
断片的な記憶が、断片的な言葉が、脳内を駆け巡る。
パッと目を引く容姿でもなんでもないむしろ地味な彼は、私の隣に座っている男と全く同じ顔をして笑った。
すると、制服姿の彼が吸い込まれるようにして私の隣へと飲まれていった………………ような気がした。
「辺見……くん?」
曖昧だった記憶が、揃っていなかったパズルのピースがパチンとはまった。
「辺見甚!変人くん!」
私は驚きと嬉しさと微妙な恥ずかしさを持ちながら、でも思い出せた喜びがなによりも勝って興奮気味に立ち上がる。
辺見くんは満足げだった。
「久しぶりだね、宮間さん」