窓ぎわ橙の見える席で
今のお店になってから、私の仕事が終わる時間は遅くなった。
時には日付が変わってしまうこともあったりして、辺見くんと会う時間はグッと減ってしまった。
でも、こうして週末になると彼は私を迎えに来て、そしていつものヘラッとした笑顔でこう言う。
「宮間さん、お疲れ様」
生物をこよなく愛する変人で、女性に対して(いや、そこは私だけだと信じたい)はちょっと変態で、私が作る料理を世界一美味しいと言って食べてくれるこの人は、紛れもなく私の好きな人である。
辺見くんの車に乗り込み、彼のアパートへ向かう。
その間の会話は、彼のお気に入りの寄生虫やら微生物やら深海魚やら。決して画像検索などしてはいけないモノばかりだ。
それなのに、彼の楽しそうな顔を見ているとなんとなく癒されてしまうのだから私も変人だろうか。
いつまで経っても洗練されない彼を横目に、それも彼らしくてアリかなと思い始めたりして。
そんなこの日、彼はクローゼットの中から分厚いアルバムを取り出して私に差し出してきた。
「この間、たまたま卒業アルバムを見つけてね」
小中高の3冊のアルバム。
それは彼の卒業アルバムでもあり、私と全く同じものである。
同級生なのだから当たり前なのだけれど。
「僕は宮間さんのこと、高2で同じクラスになるまで知らなかったんだ」
「それは仕方ないわよ。話したりしない限り接点はないもの」
微妙な作り笑いをしているポニーテールの中学時代の自分の個人写真を見て、なんだこの表情、と突っ込みながら苦笑した。