窓ぎわ橙の見える席で
あの綺麗な橙色を、今でも思い出すことがある。
東京にいた頃には思い出すことなどほとんど無かった、潮風が吹き抜けるグラウンド。
そこに流れるのどかな時間。
そして突き抜けるような橙は、私の大好きな時間だった。
「放課後、宮間さんが窓から顔を出して外を見ているのを、毎日こっそりグラウンドから見ていたんだ。あの時間が僕の至福の時間だったなぁ」
ちょうど同じことを考えていたから、辺見くんが言った言葉がシンクロして思わず「え!」と声を上げた。
「どうしたの?」
と言う不思議そうな彼の目を、じっと見つめる。
━━━━━そうか。
あの頃、私と辺見くんはすでに両想いだったのか。
恋だと気づかずに放って違う人と一緒にいた私と、最初から諦めて声をかけなかった辺見くん。
それならば、後に再会して恋人になるのはちょっとした運命だったのかもなんて乙女なことを考えてしまった。
橙色に染まりながら生物部の活動に勤しむ辺見くんの面影が、いま私の隣にいる彼とピッタリ重なる。
とぼけた顔は昔と変わらなかった。
「辺見くん」
「ん?」
トンと彼の肩に頭をもたげて、つぶやいてみた。
「幸せです、私」
「……………………僕はその百倍ほど幸せです」
「ふふふ、そうですか」
「宮間さん」
「はい?」
「そろそろ触りたくなってきた」
ブハッと吹き出してしまった。
無駄のない、いや、ムードのない直球を投げつけてくる彼にはもう慣れた。
彼を理解できる女性は、たぶん私だけ。
私だけが、彼のいいところを知っている。
━━━━━きっと、13年前から、ずっと。
窓ぎわ橙の見える席で
おしまい。