窓ぎわ橙の見える席で

変人くんの栄養源



そうだ。辺見甚だ。間違いない。
彼は私の同級生で、しかも小学校から一緒だった。
ただし小中高の12年間で、同じクラスになったのはたったの1回。
それが高校2年の時だった。


「へんみじん」という名前だから、「変人」というあだ名がついた男の子がいるのは知っていた。
顔もなんとなくは知っていた。
だけど小学校でついたあだ名が、まさか高校まで続くとは思ってもいなかった。


高2で同じクラスになった時、彼はクラスメイトのほとんどに「変人くん」と呼ばれ、担任の先生でさえもそう呼んでいた。
彼は嫌がる素振りも見せず、淡々と「だってその通りですから」とうなずく。


自他ともに認める変人。
彼は超がつくほどの生物マニアだったのだ。


クラスの団体行動にもあまり馴染まず、お昼休みも1人で行動し、放課後も1人で行動している。
時々図書室で見かけると思えば、生物学の本を読んでいたり、分厚い図鑑のようなものを真剣に読んでいたりした。
不思議なのは、彼はオタク気質であるにも関わらず、『ひとりぼっち』に見えなかったこと。


不良っぽい男子生徒にも全く怯まずに普通に話しかけていたし、クラスの超美人の女子生徒にも照れることなく普通に話しかけていた。
必要があればクラスに溶け込むという、なんだか飄々とした不思議なオーラを持っている人だった。


「変人くんって、生物に興味があるなら人間にも興味あるの?」


いつだったか、興味本位で彼に聞いたことがあった。
その時の彼は、私の方を見もせずに生物の参考書を眺めながらこう言った。


「人間には興味は無い。だってコロコロ気分変わるし、嘘もつくし、素直じゃない。見てて疲れるんだよね。だから人間を取り囲む生物たちの方がずっと素敵だと思うんだ」


こういう人って、誰かを好きになったりするんだろうか?


そう思ったらなんだか妙に気になってきて、彼が生物を追いかけるように、私も彼を目で追いかけるようになってしまったのだった。


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