窓ぎわ橙の見える席で
あの時と同じ彼が今現在、私の隣で、いや運転席に座り、車を運転している。
そして私はちゃっかり助手席に乗り、家まで送ってもらっている状況だったりする。
うぅむ、摩訶不思議。
忘れていた同級生と再会して、車に乗せてもらうなんて。同窓会でもないのに、偶然とは言え凄いことだ。
そして、さっき見たようなノロノロ運転だったらどうしようという私の不安は見事に打ち消された。
わりと普通にスピードを出している。
きっとバス停にいるのが私じゃないかと思って、確認するために速度を緩めていたのだ。
「仕事、忙しいみたいだね」
「4月は新学期だから残業続きで。その余波が5月にも押し寄せてきそうだよ」
もうすっかり私たちは敬語をとっぱらい、同級生らしく砕けた言葉になった。
高校生の頃でさえ、こんな風にじっくり2人で話したことなんてなかったような気がする。
「だいぶ痩せてるけど、ちゃんとご飯は食べれてるの?今日は?夜ご飯は?」
もともと痩せていたはずだけど、今の彼は不健康そうな痩せ方。
ゲッソリしていて、目の下のクマが酷い。
ついつい母親のように心配する言葉を掛けてしまった。
「教師になってからひとり暮らしを始めたんだけど、料理できないから外食することが多いの。トキ食堂の味と人が好きで、ずっと通ってるんだ」
「でも夜ご飯だけよね、お店に来るのは」
「うん。夜ご飯さえちゃんと食べれば、人間どうにか生きていけるもんだよ」
「は?じゃあ毎日の朝ご飯とお昼ご飯は?」
「栄養ドリンク飲んでるから平気だよ。同僚にすすめられたサプリメントも摂ってるし」
…………呆れた。これじゃ本当に倒れる日も遠くない。
むしろよく約8年もこの生活でやってきたもんだ。
「トキ食堂のご飯が、僕にとっての唯一の栄養源なんだ」
穏やかな語り口調は高校の時からちっとも変わっていない。
物腰柔らかで、押しつけがましくない。
が、しかし。
言っていることは不健康そのものだ。