窓ぎわ橙の見える席で


「変わらないって、どこが?」

「思ってることが顔に出るよね、昔から。焦ったり、悲しくなったり、笑ったり、怒っ……てるのは見たことないけど」

「そんなに学生時代、辺見くんと話してたかなぁ」

「同じクラスになった高2で、隣の席になった時によく話したと思うよ。というか、ひきりなしにあなたに話しかけられた記憶がある」


うげ、なんだそりゃ。
甘酸っぱい恋の思い出じゃあるまいし。
高2の時って、私には彼氏がいたはずだぞ。
そうそう、確かサッカー部所属の同級生、大輝くんと付き合っていたはずだ。


「変人くんって呼ばれてる僕に興味があるって話してたよ。…………覚えてない?」


対向車のライトに、辺見くんの顔が照らされる。
そんな彼を見つめながら、私は首をすくめるばかりだった。


「……ごめん、あんまり覚えてないや」

「だろうね。僕のことを覚えてる人なんてそういないと思うし」

「いや、でも思い出したよ!」

「じゃあこれは覚えてる?宮間さんは、高校時代は僕のことをあだ名の『変人くん』と呼んでたこと」

「ええっ!ごめんなさい、それももう記憶が……。私、当時から失礼な女だったんだね」

「とんでもない。辺見甚っていう名前で呼ぶ人は1人もいなかったもの。僕自身も、このあだ名は嫌いじゃないし」

「はぁ。辺見くんって変わり者だよね」

「それも高校の時に宮間さんに言われた」


どんだけ記憶力あるのよ、変人くん。
私との会話を事細かに覚えてるなんてこと、まさか無いよね?
こっちはほんの少ししか思い出せないっていうのに。
やっぱり学校の先生になるくらいだから、頭はいいんだろうな……。


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