窓ぎわ橙の見える席で
その時、車内に低い音が響いた。
何の音なのか分からなくて、キョロキョロと車内を確認する。
「ねぇ、今の何の音?」
「あ、僕の腹の虫」
「………………プッ、あはははは」
当たり前のように答えた辺見くんは、私が笑い出したのでキョトンと目を丸くした。
そのとぼけた顔は高校の頃もよく見ていた気がする。
さらに笑いが止まらなくなる私。
どうにか必死に笑いを堪えつつ、辺見くんに聞いてみる。
「栄養源のお店が閉まっちゃってたら、夜ご飯はどうするの?コンビニとかファミレス?」
「寄るの面倒だから、家で白ご飯に味噌でもつけて食べるよ」
「もー、本当の本当に死んじゃうよ?」
「大丈夫。明日こそは間に合うようにお店に行くから」
残業続きでお店に来れなかった1ヶ月の間、まさか彼は本当にご飯と味噌だけで生き抜いてきたのだろうか。
野菜は?卵は?お魚は?お肉は?乳製品は?
彼の家の冷蔵庫を覗いてみたい。
カエルの卵とか入ってたらどうしよう。夢に出てきそう。
おもむろにバッグから紙袋を取り出して、それを運転中の辺見くんの膝の上に乗せた。
彼は驚いた様子で中身を見たいようだったが、運転しているのでそれが出来ない。
「辺見くん、この辺で車停めてもらえるかな」
「あ、うん」
私の申し出により車の速度が徐々に減速し、ゆっくりと路肩に停められた。
ハザードランプをつけて点滅させ、ヘッドライトも消す。