窓ぎわ橙の見える席で
もうこの辺まで来れば、私の家もかなり近い。
家の目の前まで送ってもらうとなると狭い路地に入り込まなければいけなくなるので、ここまででいいと判断したのだ。
「私の家、すぐそこだから。ここまで送ってくれてありがとう。助かったよ」
シートベルトを外してお礼を告げると、辺見くんは膝の上に置かれた紙袋を手に乗せて怪訝そうな表情を浮かべた。
「宮間さん、これは?」
「送ってくれたお礼。今日の余ったまかないとか入ってるの。ご飯はおにぎりにしてあるから、良かったら食べて」
「い、い、いいの!?」
さっきまでとは打って変わって、辺見くんの目がキラキラしたものになった。
まるで私を神様とでも崇め称えているような目をしている。
人のこと言えないくらい、彼もだいぶ思ってることが顔に出るタイプに見えてならない。
「ちゃんとしたものじゃなくて申し訳ないんだけど。味は保証するから。じゃあ、今日はこれで……」
「あ、宮間さん」
ドアに手をかけて降りようとした私を、辺見くんが呼び止めてきた。
なんだろう、と目を向けると、
「昨日、すぐに宮間さんだと気づかなくてごめんね」
と、言った。
そんなことか、と首を振る。
「いいよ、そんなの。私だって曖昧だったんだし……」
「僕が想像していたよりもずっと綺麗になってたから」
「…………………………え?」
「きっと僕は高校の頃に比べると、だいぶ酷いオッサンになってると思うけど。人間って不思議だね、12年も経つと変わるもんなんだね」
「………………」
「あ、本当にこれ、ありがとね。じゃあまたね」
私が言葉を返す間もなく、辺見くんは嬉しそうに紙袋を掲げてニッコリ微笑んだ。
やむなく車を降りると、Uターンして走り去っていった。