窓ぎわ橙の見える席で
私と彼の接点
━━━━━私と彼の接点。
それはたった1ヶ月半の短い期間だった。
高2の夏休み明けに行われた席替えで、辺見くんと隣の席になった。
「あ、変人くんだ」
くじ引きで席順が決まり、机を移動したのは窓ぎわの後ろから2番目の席。
隣には「変人くん」というあだ名の冴えないクラスメイトの姿があり、彼を見つけて開口一番あだ名を呼んだ。
たぶん、この時初めて言葉を交わしたように思う。
「どうも。しばらくの間よろしくね、宮間さん」
辺見くんは至って普通の返事だった。
だけど思っていたのよりもずっと優しい声だったので、この人ってこういうしゃべり方するんだ〜ってそれくらいの感想はあったかもしれない。
でももう会話の詳しい内容は覚えていない。
なんせ12年前だから。
小学校も中学校も同じ、っていう人はそう珍しくない。
むしろ高校のクラスメイトの三分の一がそれだったからだ。
ただ単に辺見くんとは高2まで同じクラスになったことが無かったってだけで、別に不思議なことじゃない。
辺見くんの存在はその特異なあだ名によって認識はしていたものの、実際に本人と話すのは席が隣になった時が初めてだったのだ。
彼が「変人くん」と呼ばれる理由は2つあった。
ひとつは、「辺見甚」という名前を略して変人。「み」を抜いただけ。
名前をつけたご両親も、まさか息子がそんなあだ名をつけられることになろうとは夢にも思っていなかっただろう。
もうひとつは、彼がかなりの生物バカであるということ。
その生物に対する愛は、私の目から見たらオタクという言葉では間に合わないほど、時間さえあれば生物の知識を蓄えているように見えた。
それは他の科目の授業中であっても、その教科はそっちのけで生物の図鑑を開いて1人で勉強しているのだ。
その図鑑っていうのも、毎日違う。
動物図鑑であったり、昆虫図鑑であったり寄生虫図鑑であったり(虫が嫌いな私にはキツかった)、海洋生物図鑑であったり、古代生物図鑑であったり、微生物図鑑であったり。時には図鑑じゃなくて、遺伝子とか細胞とか、そういう本を読んでいる時もあった。
かと思えば、ひとつの生物に執着するように細かく調べてルーズリーフやノートにまとめていたり。
私の頭ではちっとも理解出来ないような、呪文のような文字やら記号を書き綴ったり。
今までアイドルオタクとか電車オタクとか色々な人を見たことはあるけど、辺見くんはそれとはまた違った独特の雰囲気を持っていた。
きっと将来は大学とかで研究室に入り、そこで生物について研究して一生を終えるんじゃないかと勝手に彼の未来まで考えてしまうほどだった。