窓ぎわ橙の見える席で
ラストオーダー、20時半。
21時きっかりに、閉店。
これは寸分の狂いもない。
あまり遅くまで営業していると、特に夏なんかは酔った海水浴客がバカ騒ぎして収拾がつかなくなるということで、長年の経験の積み重ねでこの時間になったらしい。
お客様も捌けたので厨房の片付けをしていたら、このレストラン『トキ食堂』のオーナーでもある住田正則さんが人懐っこくてもまぁるい顔(体もまぁるいですが)を私に向けて、
「悪いね、つぐみちゃん。ちょっと表の電気消して札を変えておいてくれるかな?」
と頼んできた。
「分かりました〜」と返事をして、厨房を抜ける。
厨房は昼は私とオーナーとパートの仁志さん(ベテラン肝っ玉母ちゃん)で回して、夜は私とオーナーで回している。
このお店は夜よりも昼の方が断然忙しいのだ。
ホールにいるオーナーの奥様の涼乃さんと、アルバイトの大学生の女の子空良(そら、って読むんですって!キラキラネーム!)ちゃんにも「表、閉めてきまーす」と声をかける。
「はーい、お願いします」
2人の明るい返答を聞いてから、私はエプロン姿のままでドアを開けて外に出た。
春とはいえ、夜になるとけっこう冷える。
潮風は夏ならば気持ちがいいのだが、それ以外の季節だとなかなかの強さで体の体温を奪っていく。
まぁそれもここの特性なので、生まれ育った私にはなんてことない。
テキパキと店頭に揺れる洋風の2つランプを手動で消し、表に出ていた『営業中』の古びた置き看板を持ち上げる。
これを店内にしまって、のれんを下げるためにもう一度外に出た時、どこからか呻き声のような低い声が聞こえた。
「ま、ま、ま、間に合わなかった………………」