窓ぎわ橙の見える席で
彼が今イチオシだという、寄生虫のハリガネムシ。
当時の私は怖いもの見たさに、それってどんな虫なのかとほんの少しだけ興味がわいた。
「本当にいいの?」
「いいの」
所属していた家政科学部は週に3回の活動なので、空いている放課後に彼に申し出たのだ。
「ハリガネムシを見せてほしい」と。
すると辺見くんは心配そうに眉をひそめた。
何度も「本当にいいの?」と確認してくる。
向かった先は、生物室。
生物部員がたむろするそこは、私のような一般的な女子生徒が出入りするのは珍しい。
私が部屋に入ると、ザ・生物オタクみたいな男子生徒数人がゴクリと喉を鳴らしたのが分かって、居心地が悪くなった。
そそくさと辺見くんのあとについていった。
てっきりハリガネムシなんて顕微鏡にプレパラートを載せて、レンズを覗いたら透明なハリガネのような細長いちっちゃい虫がクネクネしてるぐらいの軽い気持ちだった。
生物室の奥から辺見くんが持ってきたのは、ハリガネムシ…………じゃなくて、カマキリ。
普通の緑色のカマキリだった。
虫嫌いだっていうのに、どうしてハリガネムシに興味を持ったのか。
この時後悔すべきだった。
バケツに水を汲んで、カマキリを指でつまんだ辺見くんがくるりと私を向く。
そして冷静な声でこう言った。
「今からカマキリの体内からハリガネムシを取り出すけど、グロいから見ない方がいいと思うよ」
「は?カマキリのハリガネムシ?ええ?ハリガネムシってカマキリなの?」
「カマキリに寄生してるの。見ない方がいいと思うよ。取り出したら声かけるから、目をつぶってて」
「つぶってる間にキスしない?」
「しない。たぶん」
「こらっ」
どうでもいい会話をしたあと、私はそっと目を閉じて下を向いた。
少ししたあと、小さな水音。
離れて座っていたはずの生物部員たちが、いつの間にかそばに来ていたらしく「おぉ〜」とか「何度見ても凄い」と感想を口にしている。