窓ぎわ橙の見える席で
「あんた、まさか変人くんのことが好きとか言い出さないわよね?」
小学校の頃からの親友でもある寺浜絵美(通称てらみ)が、私と並んで教室の窓からグラウンドを見下ろしながら呆れたようにため息をついた。
「彼氏はどーした?うまくいってないの?」
「や、やだなぁ。うまくいってるよ。変人くんは好きとかそういうことじゃなくて……」
「まぁ、アレは無いわな。異性としてっていうより一種のキャラクターみたいなもんだよね」
キャラクターかぁ。すごい言われようだな。
日が落ち始めて、夕焼けがグラウンドを包み込む。
街全体が橙色に染まっていく。
その中に、いつも辺見くんがいた。
私はグラウンドの脇道を歩く辺見くんを目で追う。
でも隣のてらみは、私が彼を見ていることには気づいていない。
というより、彼女は彼がグラウンドにいることさえも気づいていないだろう。
辺見くんはあまり格好いいとは言えない走り方で閉鎖されているプールの方へ走っていった。
私たちのいる教室からは死角になるプール。
姿が無くなってしまったので、「あーあ」とため息をついた。
「大輝くんに愛想つかされる前に、変態くんと絡むのやめなさいね」
「てらみ、変人くんだよ」
「どっちも似たようなもんじゃない」
まぁ、確かに。
でも本当に、恋愛のそれとは違うんだけどなぁ。
この私の感情はなんなのか、自分でも説明が出来ないからどうしようもない。
ただ、辺見くんに興味があるっていう点では否定はしない。
私と辺見くんの接点は、この高2の時に隣の席になった1ヶ月半だけ。
この時だけ、私は彼に何かと話しかけた。
彼も嫌な顔せずに応じてくれたし、聞けば何でも答えてくれた。
そして、接点はこれだけだったのにも関わらず、私はそのあとも放課後に彼を窓ぎわの席から探すことをやめなかった。
それは何故なのかは私にも分からない。
分からないまま、高2の秋に大輝くんと別れ、
分からないまま、高2が終わり、
分からないまま、高3になり、
分からないまま、卒業した。
それきり、辺見くんのことを思い出すこともなかった。