窓ぎわ橙の見える席で


何が悲しくてあの「変人くん」と恋愛みたいなことしなくちゃならないのよ。
そんなのてらみに聞かせたら鼻で笑われるに決まってるんだから。
むしろてらみなんて辺見くんのことは覚えてもいないかもしれないな。


カツカレーをお皿に盛り付けてトレイに乗せる。
そのままカウンターに出して「お願いしまーす」と声をかけたら、空良ちゃんが顔を出して持っていった。


オーダーはとりあえず途切れた模様。


「先生って昔からあんな感じなの?なんていうか……明るいオタクっていうのかしらね、見た目も細長いし」


仁志さんが冷蔵庫から玉ねぎを取り出して刻んでいる。
夜の仕込みを始めたらしい。
マスクをして話しながらも手は休めない。
さすがベテラン。


「辺見くんはどこも変わってないですね。あえて言うなら高校時代よりさらに痩せて、髪の毛も伸びたかなーってくらい」

「あら〜、あの先生ってば昔からあぁなのね」

「冴えないですよねぇ」


私と仁志さんが辺見くんの話をしていると、オーナーが「分かってないなぁ」とチッチッと人差し指を立てた。
いつの時代のポージングだろうか。


「先生はいい男だと思うけどなぁ。よ〜く見たら鼻筋通ってるぞ?それに、憎めないところがあの人の特性だろ?」

「いい男かどうかは別として、まぁ……憎めないっていうのは分かります」


昨夜の辺見くんを思い出しながら答える。
憎めない、というのは高校時代から変わらない。
あの柔らかな雰囲気と、穏やかな語り口調がそう思わせる要因だ。


「でも先生もいい歳なのに恋人がいるっていう話も聞かないからな、どうだ?つぐみちゃん。ここらで先生と……」

「ありえません!」


オーナーはどうしても私と辺見くんをくっつけたいらしい。
そうはいくかと声を荒らげて否定してやった。


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