窓ぎわ橙の見える席で
出来上がった定食とデザートを空良ちゃんにお願いして、辺見くんたちに届けてもらう。
オーナーは厨房に戻って……こない。
あの人なんだかんだわりといい加減よね、口には出せないけれど。
なんとなく私も気になって、調理器具の片付けを放ってカウンターの間からチラチラと辺見くんたちの様子を伺ってみる。
だけどサラリーマン3人組のどでかいボリュームの会話が邪魔をして、肝心の彼らの会話はなかなか聞き取れなかった。
辺見くんは美味しそうにモリモリご飯を食べ、向かいに座る女子生徒も笑いながら鶏もも肉を口に運んでいる。
それにしても、本当にけっこう可愛い子じゃないの。
髪も長くてサラサラで、遠目だけど色白でスラリと伸びた手足。
本気で辺見くんが彼女に手を出してるんじゃなかろうかと思い始めた頃、ようやくオーナーが厨房に戻ってきた。
「いやぁ、先生が女の子連れてくるとはねぇ!隅に置けないなぁ〜」
「あはは、そうですね」
カウンターから覗いていたことを知られたくなくて、慌ててコンロの前に移動して笑顔を作っておいた。
「あの子、生物が大好きなんだってよ?それで興味あるから、時々先生に授業では習わない生物の話をしてもらってるんだってさ」
「とんだ物好きがいるんですね……」
まぁ、私も他人のことなんて言えないんだけど。
彼が調べていることに興味を持っていたという高校時代を思い浮かべて、アレは一時の気の迷いだったんだろうなぁ、と考える。
辺見くんは昔からそうだった。
基本的にオープンで、生物に興味を持ってくれる人にはなんでも話してくれたし、質問にもしっかり答えてくれた。
むしろ興味を持ってもらえて嬉しい、という気持ちを持っているかのように。
きっと今も、あの女子生徒に対してそういう思いで接しているのだろう。