窓ぎわ橙の見える席で
気のせいかと思ってのれんを持って中へ戻ろうとしたら、またさっきの呻き声が。
「死ぬ…………」
穏やかではない言葉に、思わず足を止めて辺りを見回す。
目の前には車道、横には歩道。
海は真っ暗だし、ポツポツと街頭があるくらいで他には明かりも何も無い。
「誰かいますかー?」
念のため、呼びかけてみる。
すると、ドサッと何かが落ちる音がした。
目を凝らしてよく見てみると、歩道に誰かが倒れている。
慌てて駆け寄った。
「だ、大丈夫ですか?死なないでくださーい!おーーーい!」
触るのがちょっと怖かったので、体には触らずに遠巻きに呼びかける。
うつ伏せに倒れているけど、とりあえず男性であるというのだけは見て分かった。
黒いリュックも、薄手のコートも、ネイビーのスラックスも、そのへんの量販店で1900円くらいで売ってそうなスリッポンも、全部ちょっとボロい。
ホームレスか、苦労人か、はたまたただの貧乏人か。
「表で誰かが倒れてますー!」
とりあえず私にはどうすることも出来なかったので、お店に駆け込んで応援を呼んだ。
すぐに店内に残っていたオーナーを含めた3人がバタバタと外へ出てくる。
4人で倒れている男を取り囲み、好き好きに口を出す。
「ありゃあ。こりゃ死んでるのかい?」
「死ぬー、って言って倒れました……」
「救急車呼んだ方が良くないですか?」
「寝てるだけじゃないのかねぇ?」
目にも止まらぬ早さでスマホを操作して救急車を呼ぼうとしている空良ちゃんより先に、寝ているだけと判断した怖いもの知らずの涼乃さんが、突っ掛けサンダルでツンツン男の肩をつついた。