窓ぎわ橙の見える席で
「変人先生、もしかして最初からそのつもりでここに連れてきたのかもしれませんね」
閉店後の店内のテーブルを丁寧に拭いて回りながら、空良ちゃんがボソッとつぶやいた。
涼乃さんが「何が?」と聞き返している。
私はいつものように厨房のカウンターで明日の『本日の定食』のメニュー作り中だ。
「生徒からの好意をやんわり断るため、ってことですよ。つぐみさんを彼女代わりにして、牽制しておいた……とか」
「そんな器用な人かしらね〜?」
「でも頭だけはいいじゃないですか」
「確かにねぇ。てゆーか、実際くっついちゃえばいいのにね、あの2人」
「ほんとですね!」
私に聞こえてないと思って好き放題言ってるな、涼乃さんたち。
ドラマの見過ぎなんだよね、みんな。
どうしてかつての同級生に再会しただけで恋愛に必ず発展するって言い切れるのか。
そんなの作り物の世界の話であって、現実にはそう簡単には起こらないんだから。
明日の定食のメニューは、サバ味噌にしよう!
これぞ定食!って感じの。和食も行けます、私。
今日の仕込みで余った鶏もも肉を細かく刻んでトマトソースで軽く煮込み、冷ご飯をそこに投入してケチャップライスならぬトマトライスを作り上げた。
それを3つのタッパーに分ける。
まかない料理はみんなで分け合うのだ。
「わぁ、今日も美味しそう!ありがとう、つぐみさん!」
と、目を輝かせてタッパーを受け取る空良ちゃん。
毎度毎度、本当に嬉しそうにしてくれてこちらもありがたい。
「いつも美味しいまかない、ありがとうね」
と、ひと回り大きいタッパーを笑顔で受け取るオーナー夫婦。
こうやって目の前で「美味しい」とか「美味しそう」とか、素直に言ってくれることがどんなに幸せだろう。
ホテルのレストランで働いていた頃には分からなかった気持ちだった。