窓ぎわ橙の見える席で
海鮮焼きそばを、2人で食べる
タッパーを入れた紙袋をぶら下げて、仕事終わりの私は暗い夜道をバス停に向かって歩いていた。
パウンドケーキにホイップクリームはつけた方がいいのか、つけるならミントも添えるべきか。
そんなことを考えながらいつもの道を歩く。
平日はお客様の多くがサラリーマンだから、ホイップクリームだのミントだのいらないかなぁ。
甘ったるいの、男の人ってあまり好まないよね。
それなら経費削減で最初から添えない方が良さそうな気もする。
でも見た目が…………、いや、見た目は問題じゃないのか、トキ食堂は。味が求められるんだから。
携帯で手元を照らしてレシピノートを広げながら、アレコレ考えを膨らませる。
でもさ、毎日出してるプリンだって、冷やした器のままお客様に出すんじゃなくて、違うお皿に取り出して、上にちょこんとホイップクリームなんか載せたりしたらかなり印象が変わると思うのよね。
あぁ、凝ってるなぁって思わせることが出来ると思うのよ。
それと同じじゃないのかな、パウンドケーキのホイップクリームやらミントも。
オーナーに要相談……といきたいところだけど、なんとなく、
「ホイップクリームぅ?ミントぉ?いらんいらん!大丈夫、大丈夫!味で勝負だぞ〜、つぐみちゃん!」
とガハガハ笑って一蹴される気がしなくもない。
どうしたものかとため息をつきかけた時、後ろから短い車のクラクションの音が聞こえた。
デザートのことで頭がいっぱいだった私には突然のことすぎて、驚いて持っていたものを全て地面に落としてしまった。
もちろん、まかないを入れた紙袋も。
「ぎゃあ!なんてことだぁぁぁぁぁ……」
思わず叫んでいると、車から慌てたように誰かが降りてきて私の元へ駆け寄ってきた。
「ご、ごめんね、宮間さん!」
なぬ?その声は……。
「辺見くん!?」
振り返ると、紛れもなく辺見くんがいた。
焦ったような表情を浮かべて、私の足元を呆然と見ている。