窓ぎわ橙の見える席で
「そうじゃなくてね。宮間さんを彼女だのなんだのって思わせてしまったこと。僕なんかが相手で申し訳なくて」
ボソボソしゃべる辺見くんを見上げて、そういうことかと理解した。
なるほど、彼は彼なりに私に気を使ってくれたってわけだ。
「いいよ、それは。あの子もあれで辺見くんのこと諦めるだろうし。結果オーライでしょ?」
「まぁ……。あ、でも宮間さん、恋人とかいるんじゃ……」
「………………」
「ご、ごめん……」
しまった、無意識に睨んじゃったよ。
ついつい「恋人」だの「彼氏」だの、そういうワードを聞くとイラッとしてしまう。
もう何年恋してないんだっけ……、完全に忘れてしまった。いや、忘れた振りをしてるだけなんだけど。
「さっきの件と、料理をダメにしちゃったお詫び。なんかごちそうさせてくれないかな?」
「え?」
「今日、これから時間ある?」
辺見くんは至って普通の笑顔、普通の口調だった。
下心ゼロの誘いということだけは分かる。
というか、ヤツに下心という言葉なんて存在しないんじゃないだろうか。
「いいけど」
そう言ってしまったのは、お腹が空いていたからだ。
それ以外に、理由なんて無い。