窓ぎわ橙の見える席で
地元の食事が出来るところなんて、たかが知れている。
例えば駅前のファミレスとか、ファーストフード店とか、カツ丼屋、それから牛丼屋もあったかな。
お互い地元は一緒なわけで、ちょっと車を走らせればそういったお店が立ち並んでいるということは分かりきっているというわけだ。
だけど、私は8年ほどこの街から遠ざかっていたということをすっかり忘れていたのだ。
駅前はだいぶ様変わりしていた。
帰郷した時には駅前ターミナルまでお父さんが車で迎えに来てくれたから周りを見ることもなかったし、そういえばここ1ヶ月ちょっと自宅とトキ食堂の往復しかしていない。
その時点で女としてどうなの、と自分に問いただしたい。
「焼きそば専門店?」
辺見くんが連れてきてくれたのは、見たことのないお店だった。
焼きそば専門店と書かれた、ログハウス風のお店。
23時まで営業しているらしく、飲み会帰りのサラリーマンが店内に沢山いた。
「生徒たちがここのお店の話をしててね、僕も行ってみたかったんだよ」
「え、辺見くんも食べるの?」
通されたカウンター席でメニューを眺める彼が、どらにしようかと悩んでいるので思わず突っ込んだ。
だってあなたさっき定食をしっかり一粒残さず食べたわよね?
「僕の胃袋、案外おっきいんだ」
そう言って笑う辺見くんは、高校時代の面影をそのまま残していた。
この人はいつもこんな笑い方をしていたな、って。
穏やかで、朗らかで、屈託のない笑み。
だけど残念なことに爽やかとは何故か言えないのよね、もったいない。
「私、夜ご飯はあまり多くは食べないようにしてるの。少盛り……とか無いよねぇ?」
2人でメニューを覗き込みながら私が尋ねると、隅々までチェックした彼が首をひねる。
「そういうのは無いね。残したら?僕が食べるよ」
「そうしてもらおっかな。……ってどんだけ食べるのよ」
「だから大食いなんだってば」
「そんなに痩せっぽちで説得力無いわ」