窓ぎわ橙の見える席で
答える前に、思い出したことがあった。
そういえばあの頃夕方のグラウンドをいつものように見下ろしていたら、辺見くんに声をかけられたんだった。
教室がある2階の窓ぎわにいた私に、彼はグラウンドから走ってきて校舎のそばに立ち、私に手を振ってきたのだ。
「宮間さーん、僕の机の中にあるペンケース落としてくれない?」と。
まさか見ていた張本人から声をかけられるとは思ってもみなかったので、慌てて彼の机から黒いペンケース(そういえばボロボロだった)を取り出して、下にいる彼に投げたんだった。
おっと、とペンケースを受け取る手は空振り、おまけに尻もちまでついた辺見くんは「ありがとね〜」と苦笑いしてまたどこかへ行ってしまった。
そして翌日、言われたのだ。
「宮間さんって、放課後はいつもグラウンドを見てるよね」
間違ってはいない。
その通りなんだけど、あの時から彼は、私が当時付き合っていた彼氏を見ていたと思っていたらしい。
「海明の教師、若手は僕と数学の小牛田くんくらいなんだよね。あとはみんな40歳超えちゃってて。小牛田くんは僕と正反対で太っちょで、生徒にはデブゴンってあだ名つけられてるよ」
すっかり物思いにふけっていた私を現実に戻したのは辺見くんの声だった。
変人先生並みに強烈なニックネームが聞こえたぞ、今。
「デブゴン……」
「でも彼はまだ24歳なの。それだけでも女子生徒に大人気なんだよ」
「デブゴンなのに?」
「デブゴンでもね」
「デブゴン喜んでるんじゃない?」
「連日お菓子の差し入れとかもらって、さらにデブゴンになってるよ」
「ねぇ、ちょっともう笑わせないでよ」
耐えきれずに大笑いしてしまった。