窓ぎわ橙の見える席で
人妻にとっては
新築の真新しい庭付き一戸建て。
夢のマイホーム。
玄関にはベビーカー。
外には自転車と軽自動車。
庭には旦那さんが夏になったら家族でやりたいと言っていたバーベキューが出来るように、手作りの木製のテーブルとイス。
対面式のカウンターキッチンには最新式のIHのクッキングヒーターが取り付けられ、大きな冷蔵庫と立派なオーブン。
私は、休みの日だっていうのに料理を作っているのである。
「プロの料理を家で食べられるなんて滅多に無いからさぁ〜、旦那も楽しみにしてたよ〜」
呑気な口調でそう言うのは、小中高時代に仲の良かった寺浜絵美……てらみだ。
結婚して苗字は楠木絵美になってしまったが、昔なじみのあだ名をやめられるわけもなく、「てらみ」で継続中。
8年も帰郷しなかったわけなので、もちろんてらみにも会うのは久しぶりだった。
彼女は2年前に入籍し、去年子どもを出産したばかりだ。
8ヶ月の赤ちゃんを抱っこしている。
結婚式を挙げずにそのお金をマイホームにかけただけあって、なかなか立派なお宅だ。
初めて来たけどめちゃくちゃ居心地がいい。
愛する人と結婚して、子どもにも恵まれ、庭付き一戸建てを建て、その上自由に動き回れる車もあり、彼女を勝ち組と呼ばずになんと呼ぼう。
てらみとは東京に行ってからも連絡はけっこう取り合っていたので、お互いの事情はよく知る間柄という関係は変わっていない。
会うのが8年振りというだけ。
なんでもズケズケものを言ってくる彼女の性格は8年経っても変わりない。
「ほんとはさぁ、フランス料理フルコースお願いしたいくらいなんだけどね!ま、それは今度旦那が休みの時に頼むわ」
気楽に言ってくれるぜ、親友よ。いや、人妻よ。
「無理に決まってるでしょ。材料無いもの」
「トリュフもフォアグラもいらないわよ?有るもので作るのがプロでしょうが」
「食材じゃなくて調理器具!」
「そんなの無くても作るのがプロでしょうが」
「……………………金取るぞ」
「あはは、ごめんごめーん」
豪快に笑い飛ばすてらみを見ていたら、こっちまでフフッと笑みがこぼれた。