窓ぎわ橙の見える席で
「俗に言う運命の再会なんじゃないの〜、あんた世話好きだし、そーいうのほっとけないでしょ?」
好き勝手に言いたい放題のてらみを完全無視し、私は食事に集中する。
自分で作っておいて言うのもアレだけど、テリーヌの味がなかなかいい。
コンソメを控え目にした分、生ハムの塩味が鶏もも肉を引き立てていて味わい深い。
トキ食堂で作っている大衆向けの料理も嫌いじゃない。
だけどやっぱりずっと修行してきた手の込んだフランス料理に愛着があったりもする。
複雑な心境なのだ。
チクッと胸が痛む。
こんな気持ちでトキ食堂で働いているなんて、オーナーたちに悪い。
自分だけの思いとして、胸にしまっておこう。
「妙に女慣れしてて浮気の心配ばっかりしてた元カレ考えたら、あんたには変人くんみたいな人がピッタリだと思うのよねぇ」
私が感傷に浸ってる間に、1人で話し続けているてらみ。その顔は何故かドヤ顔だ。
元カレっていつの元カレのことなのか。
そういえば何年も前に紹介で付き合った人にそんな人がいたような、いないような。
仕事に忙殺されていたため、東京での記憶が曖昧になりつつある。
「なんなのよ、その顔は。つぐみっていっつも恋愛に対してそんな感じだよね。自分から好きになったことないでしょ」
冷静な口調のてらみに、文句の一つや二つ言ってやりたい気持ちはあったけれど。
彼女の言うことはあながち間違っていなかったりする。
「言われてみれば…………ないかも」
親友に言われて初めて気づいた、私の恋愛の傾向。
そういえば今までに付き合った人はみんなあちらから告白をしてくれて、「どちらかといえば好みだし付き合ってみるか」と交際に発展したパターンしかない。
そりゃ結婚なんて遠いわけだ。
思い起こせば私は「仕事が忙しい」の一点張りで、恋人に甘える暇もなければ「会いたい」と連絡したこともなかったんだ。
なんて可愛げのない女だったんだろう。