窓ぎわ橙の見える席で
例のポスターというのは、涼乃さんと空良ちゃんがパソコンで作った派手派手のもの。
「東京出身の一流シェフによる手作りデザート付き!定食新価格!900円であなたも一流の味を食べてみませんか?」
という凄まじいキャッチコピーをデカデカと印字し、それらを店内と、さらには外にも何枚も貼り付けているのだ。
私は東京出身でもないし、一流シェフでもない。
もろこの街の生まれであり、育ちもその通り。
一流ホテルのレストランで働いてはいたけれど、一流シェフかと問われるとそれは微妙だったりする。
あとから詐欺だと訴えられるんじゃないかと内心ヒヤヒヤしていた。
「つぐみちゃん、あとデザートの盛り付けお願いね」
オーナーにそう言われて「はい」と返事をした私は、あらかじめカットしておいたミルクレープをお皿に盛り付けトレイに乗せ、カウンターに差し出した。
「13番14番の定食でーす」
ホールに声をかけると空良ちゃんが急いで飛んできて、「ありがとうございますっ」と元気よくトレイを持っていった。
時計をチラッと見る。20時を過ぎたあたりだ。
お客様の波も引きつつある。
オーダーもほとんど捌いたし、間もなくラストオーダーになる。
すると、入口の方から「こんばんは〜」と男性の声が聞こえた。
見なくても分かる。辺見くんだ。
「あぁ、良かった。今日は間に合いました〜」
カウンターからホールを覗くと、辺見くんが窓ぎわのテーブルについたのが見えた。