窓ぎわ橙の見える席で


お腹にたまるものなんてガッツリ系でいいのかな。
あの人、あんまり具合は良くなさそうだったけど。
冷蔵庫にはわりと食材は残っているので、メニューの選択肢はかなり多い。


緩んでいたセミロングの髪をもう一度キュッとひとつに結び直して、気合いを入れる。


とりあえず油を駆使したトンカツとかステーキはやめておくか。
胃に優しいものにしよう。


キャベツに玉ねぎ、彩りに人参を適当に切って鶏ガラスープで軽く煮込む。
生野菜を使ったサラダよりは野菜スープの方が体にはいいはずだ。


その間にトントントントンと軽快に野菜とベーコンを刻み、卵を溶いてご飯を投入。フライパンを振るう。
ジュージューという音が店内に響き渡る。
味付けの薄い炒飯くらいなら食べやすいんじゃないかという私の勝手な思いだ。


定食につけるプリンを取り出し耐熱皿に入れて、軽くかき混ぜてからグラニュー糖を上に振りかける。
それをバーナーであぶれば、なんちゃってクレームブリュレの完成だ。


盛り付けにもこだわりたいところだけど、このお店ではそんなものは求められていない。
速さと美味さだけが要求されて、見た目の綺麗さは誰も喜ばないのだ。


「お待たせしました〜」


と、トレイに乗せてカウンターに置くと、空良ちゃんが「もらいます」と取りに来て、それをお客様の元へと運んでいった。


厨房の中で後片付けをしていたら、音楽も何もかけていない静かな店内から「美味いぃ」「生き返るぅ」という感動したような声が聞こえてきた。


おー、良かった良かった。
何者かは知りませんが、きっと素晴らしい功績をお持ちの方なんでしょう。
忙しさにかまけてお食事も取れなかったんでしょう。
どうかお体、ご自愛くださいませ…………。


< 6 / 183 >

この作品をシェア

pagetop