窓ぎわ橙の見える席で
「先生、まだ忙しいの終わらないの?」
空良ちゃんがお冷やを出しながら辺見くんに尋ねている。
それもそのはず、彼が夜に来たのは私と焼きそばを食べに行ったあの日以来だ。
毎晩来れるようになったのかと思いきや、残業が多いのか姿を現さなかったのだ。
「中間試験があるからね。あと2週間頑張れば残業も減ると思うんだけどなぁ」
「うわ〜、中間とかもう聞きたくない」
「大学生には縁のない言葉かもね」
「先生は今日も定食?」
「うん、お願いします」
やり取りのあと、空良ちゃんはカウンターに来て伝票を置きながら
「定食ひとつお願いしまーす」
と声をかけていった。
「なんだか先生、見るたび痩せていくなぁ」
定食の調理に取り掛かった私をよそに、カウンターから辺見くんの様子を眺めていたオーナーがボソッとつぶやく。
そもそも私としては痩せていない彼を見たことが無い。
高校の時から痩せ型だったけど、今はあの頃よりもさらに細いことは確かだ。
食欲だけはあるようだから、定食のメニューをほんの少し多めに盛ってあげた。
ご飯も、鮭も、サラダも、チキンスープも。デザートのミルクレープはカット済みなので多めに出来なかったけれど。
それを空良ちゃんに運んでもらった。
辺見くんはトキ食堂に来ない日は、本当に家でご飯に味噌をつけて食べているのだろうか。
それが事実だとしたらちっとも栄養が摂れていないことになる。
他人だけどちょっと心配。