窓ぎわ橙の見える席で


ラストオーダーの時間が過ぎ、厨房の中では徐々に片付け作業に入る。
明日の定食のメニューのこととかデザートのことをぼんやり考えていたら、ホールから辺見くんの声が聞こえた。


「ごちそうさまでした。お会計お願いします」

「はいはい、900円になります〜」

「今日も美味しかったです」


涼乃さんがレジでお会計をしているらしい。
時々大きな笑い声が響く。


「あ、そうだ。宮間さんとお話できますか?」


思い出したような彼の言葉が聞こえてきて、私は洗い物をしていた手を止めた。
水を止めて手を拭いて足早に厨房を出ると、ちょうど涼乃さんが私を呼びに来ようとこちらへ来たところだった。


「あ、宮間さん。いつもありがとう。デザートも甘さ控えめで美味しかったよ。さすが一流シェフだね」


微妙に嫌味くさい言い方をしてきた辺見くんに、私はわざとらしく腕を組んで睨みつけてやった。


「それはどうも。辺見先生」

「やだなぁ、その呼び方。もっと素直に喜んでよ、褒めてるんだから」

「あ・り・が・と・う」


不満たっぷりにお礼を言うと、おもむろに辺見くんが近づいてきてコソッと耳打ちしてきた。


「こっちこそありがとね。大盛りにしてくれたでしょ」

「………………うん」


別に深い意味なんてない。
オーナーが「見るたび痩せていく」なんて言うから気になっただけだ。
でも辺見くんは嬉しそうに笑っていた。


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