窓ぎわ橙の見える席で
「あ、宮間さん。いたいた」
助手席の窓を開けて、辺見くんがニコッと微笑むのが暗がりながらも確認できた。
どう反応すればいいのか困ってしまって、「どうも〜」と微妙な返事をして手を振ったら不満そうな顔をされた。
「なんだ、乗らないの?送ってくよ?」
「え、いいの?」
「うん、待ってたから」
その「待ってた」という言葉が引っかかったけど、聞こえなかった振りをしてそそくさと車に乗り込む。
以前乗った時には壊れていた車内のカーステレオが直っており、そこからはラジオが聞こえてきた。
「カーステが直ってる……」
「週末に修理したの。ラジオくらい聞けた方がいいなーって。天気予報も聞けるしね」
ヘラヘラ笑う辺見くんの横顔を眺めながら、思わずウーンと首をひねる。
掴みどころが無いと言えばその通りの彼。
話しやすいけど、何を考えてるのか分からないっていう部分もあったりする。
「あのさ、わざわざ私を待ってたのって…………、まかない料理もらうため?」
「あら、バレた?」
「バレてるよ、最初から」
やっぱりそうよね、それでこそ辺見くんだわ。
笑っている彼に、タッパーが入った紙袋を丸ごと渡した。
今度タッパー返してね、と付け加えながら。
まだ温かいそれを受け取った辺見くんは、嬉しそうに目を細めていた。
「宮間さんの作る料理は絶品だよね」
「欲を言えば盛り付けを変えたいんだけどね……。もっと高さを出したいの」
「盛り付け?……あぁ、前のお店はフランス料理を出してたんだっけ?」
「どうしてもそっちの物差しで考えちゃうんだよね。あっ、もちろんトキ食堂の盛り付けを否定してるわけじゃないのよ!」
「分かってる」
しまった、辺見くんはトキ食堂のファンだったはずよね。
それなのにこんな愚痴っぽいの聞きたくないだろうから、話をすり替える。
「辺見くんはもう少し仕事が忙しいのが続きそうなんだってね?」
すると彼は「そうなんだよ」と苦笑して、頬をポリポリかいた。