窓ぎわ橙の見える席で
「最近の職員室での話題は、校則にピアスの規定を入れるか入れないかで持ち切りなんだ」
「ピアス?ダメなんだっけ?」
「派手なものはダメなんだって。でもその派手っていうのが大雑把だから、ひと粒タイプなら可にするとか、いっそのこと透明ピアスのみ可にするとか。そういう討論をみんなしてる」
話を聞きながら、どこか他人事のように説明する辺見くんを見て、きっと彼はそんな職員室でひっそりと生物図鑑か何かをデスクに広げ、討論には一切関わらずに過ごしているのだろうなと勝手に想像する。
興味が無いことにはまるっきり興味を示さない。
おおかた学生たちが大ぶりなピアスをつけてきて、先生に注意されることが多くなってきたのが原因なんだろうな。
私が通っていた頃はスカート丈が短いだのなんだのって問題になっていた気がする。
そういう身だしなみ系の問題は、学校だと絶え間ないに違いない。
「ピアスって痛くないのかなぁ。僕は開けたいと思ったことは一度も無いよ」
前方が赤信号に変わり、辺見くんがゆっくりブレーキを踏んで車は停車した。
彼の素朴な疑問に、私は親切心から答えてあげた。
「私、開いてるけど痛くないよ。開ける瞬間はちょっと痛いけど、開いちゃえば全然平気。普段はピアスつけてないけど、時々つけてれば穴も塞がることないしね」
「宮間さん、ピアス開いてるんだ」
「うん。専門学校の頃に開けたの」
下ろしていた髪の毛を耳にかけて、「ほらね」と穴がポツンと開いているのをなんとなく彼に見せた。
すると、予想外に辺見くんは突然顔をそばに寄せてきて、まじまじと私の右耳を観察し始めたのだ。
まるで研究対象であるかのように。
「へぇ。穴は塞がらないんだ」
「ちょ、ちょっと前見てよ!運転中でしょ?」
「今、赤だから。ねぇ、暗くてよく見えないから触ってもいい?」
「触っ…………、はぁ!?」
聞き返したのとほぼ同時に辺見くんの指が私の耳たぶに触れた。
ゾワッと妙な感覚に襲われる。