窓ぎわ橙の見える席で
3 自分だけに必要な言い訳
栄養失調の変人くん
それから辺見くんは学校の中間試験の準備で忙しいのか、2週間ほど食堂に姿を現すことは無かった。
自分が生徒の頃は先生が日頃何をしているのかよく分からなかったけれど、どうやら教師という職業は試験前後は非常に忙しいらしいのだ。
毎晩のように夜に定食を食べに来る辺見くんがなかなかお店に来ないので、オーナーたちはやきもきしているようだった。
「この時期はあまり来れないのは分かってるんだけどなぁ、ほらあの人ってどう見ても栄養不足だろう?だから心配になっちゃってさぁ」
と、オーナーがボヤく。
チラチラと私を見てくるので、彼が言いたいことはなんとなく分かった。
「言っておきますけど、私は辺見くんの連絡先も知らなければ住んでるアパートも知りませんよ」
「そうか〜。心配だなぁ〜」
こうやって心配心配を繰り返すオーナー。
どうやら本当に私がここへやって来る直前までは毎日欠かさず顔を出していたようで、タイミングがいいのか悪いのか彼がご飯を食べに来たのを見たのは数回ほどしかない。
しかも思い起こせばその都度私は家まで送ってもらっていたんだった。
お疲れのところ申し訳なかったな、と今さらながら反省したりして。
「この間の生徒さんの件もあるし、意外と先生ってばモテてたりして!ちゃんとご飯作ってくれる彼女もいるかもしれないし!」
お店が暇なのか空良ちゃんがホールからカウンター越しに横槍を入れてくる。
そのなんでもない予測の発言に、どことなくイヤ〜な気持ちになってしまいそうになった自分に気づかないふりをした。
いや、だってさ。
あの新田さんっていう女子生徒を諦めさせるためにわざわざトキ食堂に連れてきたくらいなんだから、彼女なんていないでしょ。
たぶん……だけど。