窓ぎわ橙の見える席で
「そうだ、聞いてくださいよ!私……太っちゃったんですよ〜。つぐみさんのまかないが美味しすぎるから!デザートまで完食しちゃうから!」
ブーブー口を尖らせて空良ちゃんがカウンターから私へ向かって文句らしき言葉を浴びせてくる。
良かれと思ってデザートを多めに入れていたのが仇になったのか、私は苦笑いを返すしか出来ない。
「そういやぁ俺も少し太ったんだよな……。確かにつぐみちゃんの料理はどれも絶品だからな」
「オ、オーナーまで……。褒めても何も出ませんよ」
空良ちゃんに加勢するようにオーナーがちょっとポッコリ出てきたお腹をパンパン叩いているから、ついには居心地が悪くなってくる。
褒められているんだか迷惑がられているんだか、それも分からないのでどうにも反応に困る。
そんな私に空良ちゃんは話を続ける。
「昨日の夜に来てた女性の2人組のお客様が、カウンターの隙間から見えるつぐみさんのことガン見してましたよー。あの人が一流シェフかーって」
「う……。本当に一流なワケでもないのにあのポスターのせいで肩身が狭いなぁ」
「何言ってるんですか!みんな美味しいって言ってるんですよ!自信持ってくださいよぉ!」
「あ、ありがとう」
自信か……。
一応、あの東京のホテルでの濃ゆい8年が私に自信をつけさせてくれたのは間違いない。
荒波に揉まれ、下手くそと罵られ、それでもどうにか食材を触らせてもらえるようになり、やがて下ごしらえを担当するようになり、ついには前菜の調理と盛り付けを任せられた。
時にはメインディッシュだって担当することもあった。
それに比べたらこのお店はのんびりしていて平和で、罵倒されることもなければ誰もが「美味しい」と言ってくれて。その声がダイレクトに耳に届く。
これほど嬉しいことはない。