窓ぎわ橙の見える席で


そうして忙しくなるのが終わるはずの2週間が経過し、そこからさらに1週間が経った。


一向に辺見くんはお店に来なかった。


さすがに彼の体調が心配になってきたある日の夜、大量のまかない料理を巨大なタッパーに詰め込めるだけ詰め込んで、なんと私は海明高校の校門の前に立っていた。


「同級生として心配してるだけ、同級生として心配してるだけ、同級生として心配してるだけ」


呪文のようにそれらの言葉を繰り返し、ものすごく懐かしい母校の校門を眺めた。
鉄の錆びついた門は塗り替えられていたし、校舎の色も覚えているのよりも明るい気がする。私の記憶とだいぶ様変わりしていた。
当たり前か、通っていたのは12年も前のことなのだから。


辺りは真っ暗、もちろん校門も真っ暗、グラウンドも真っ暗。
校舎を見るといくつか明かりが灯っているので、おそらく教師たちが残って仕事をしているのだろう。
時刻にして22時過ぎ。
お疲れ様です、先生方。


泥棒にでもなった気分で校門を開けて敷地内に入り、海の匂いがするグラウンドを通り抜けて校舎へ入ろうと正面玄関に向かった。
ところが、玄関の重厚なドアはウンともスンとも言わない。
どうやら鍵がかかっているらしい。


ハッとして顔を上げる。
私…………、もしかして不審者じゃない?


1人でアタフタしていたら、突然どこからか眩しい光を顔に向けられた。
反射的に目をつぶる。


「ん?女の人?何かご用ですか?」


男性の声が聞こえて、そーっと目を開く。
懐中電灯で照らしているらしく、男性はライトの光を足元にずらしてくれた。


「や、夜分遅く申し訳ありません!宮間と申します……。あの〜、辺見くんはまだ学校にいらっしゃいますか?」

「変人先生のお知り合いですか!いやぁ、校内のセキュリティが作動したので不審者かと思ってしまいました」


ゲへへ、と若干不気味な笑い方をする男性。
よく見たらかなり体格がいい。
人の良さそうな顔つきに、お肉のついたポヨポヨしたお腹。ワイシャツのボタンがはち切れそう。
でもなんだか憎めない感じの若い男性だった。


即座に分かった。
辺見くんが言ってた『デブゴン』。
いくらなんでも口にはしなかったけど。


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