窓ぎわ橙の見える席で
「だから、仕事が忙しいのは今日でおしまい。明日からは夜はトキ食堂に行くから。ね、これで安心でしょ」
どうだ、と胸を張って自慢げに主張してくる辺見くん。
だけどそんな彼を、私は胡散臭そうに目を細めて横目で眺めた。
「いい?人間は1日3食でバランスのいい食事を摂るようにって学校で習わなかった?夜だけちゃんと食べてもダメなのよ。お昼ご飯は?」
「朝は時間無いし、昼はサプリメント飲んでるから……」
「サプリは食事と併用してこそ効果があるものなの!」
「え、そうなの?そりゃ初耳だ」
こんな非常識な人でも教師になれるんだもの、不思議な世の中だ。
呆れ返ってものも言えない私の態度に対して、辺見くんは平和にヘラッと笑ってちっとも気にしていない様子。
はっきり言って、一緒に暮らしているという猫の体調まで心配になるほどのレベルだ。
ふぅっとこれみよがしにため息をついて、運転しながらも半笑いで辺見くんがつぶやく。
「お弁当とか作ってくれる心優しい人がいると僕も助かるんだけどね。なかなかそういう人もいないし、自分で作る気にはなれないし……」
「朝にコンビニに寄れば一発でお弁当買えるわよ?」
「そういえば宮間さんは、お昼はいつも何食べてるの?」
するりと話題を変えられた。
あれ、なんだか嫌な予感。
「私はいつも自分でお弁当作ってるから、それを食べてるけど」
「宮間さん、お弁当食べてるの!?えー、いいなー!きっとほっぺたが落ちるくらい美味しいんだろうなぁ」
「おばあちゃんの仏壇にお供えする定食の余りよ。普通の和食」
「胃に優しそうだね〜、食べてみたいなぁ〜」