窓ぎわ橙の見える席で
ジロリと運転する辺見くんの横顔を睨みつける。
彼は前を向いてラジオから流れてくる軽快な音楽に合わせてフンフンと肩を揺らしながら、少し上機嫌で笑みを浮かべている。
そう簡単にうなずくもんですか。
半分ヤケになりつつ首を振った。
「…………無理だよ。辺見くんと朝は会わないもの」
「毎朝、宮間さんちに寄るよ」
「無理だよ。出勤時間が違うもの」
「お弁当だけ受け取るから問題無いよ」
「無理だよ。いちいちインターホン押されて顔合わせるの面倒だもの」
「庭先にでも置いてくれれば勝手に持っていくから平気だよ」
「無理だよ」
「いや、宮間さんなら無理じゃないよ」
なんなの、このやり取り。
ていうか、辺見くんってこんなに押しの強い人だったっけ。
柔らかい笑顔で、さも優しいことでも言うように普通にけっこうすごいことを頼んでくる。
よく考えたら頼む立場の人の態度じゃないんだけど。
信じられないというような目つきでヤツの顔面左側をまじまじと見ていたら、信号で車を停車させた辺見くんがようやく私の方を振り向いた。
やっぱり笑顔。しかも満面の。
「宮間さんのおかげで僕の寿命は長くなりそうだ。ついでにガリガリ君からも卒業出来ると思うよ」
どういう意味なのか。
別に彼がガリガリ君だろうがプヨプヨ君だろうが、私には関係のないことだというのに。
もういい加減考えるのも疲れてきた。
「あー、もう!分かったわよ!作ればいいんでしょ、作れば!作ってやるわよ、お昼用のお弁当!これでいいんでしょ!?」
観念した。
もう、なんだか彼のこの笑顔での押しの強さに勝てる気がしない。
辺見くんは大満足の顔で「ありがとう」とお礼を言うのだった。