窓ぎわ橙の見える席で

お弁当と、そのお礼



『ほぉほぉ。で?お弁当を作る約束をしてから1ヶ月経ったのね。毎日欠かさず作ってあげてるわけだ、変人くんに』

「まぁ、一応そういう話になったから流れでね」

『で、お弁当のお礼は毎日帰りに家まで送ってくれる……と』

「だってそうするって聞かないんだもの」

『てことは、何?変人くんと連絡先も交換したのね?』

「だって仕方ないじゃない。成り行きだもの」

『は?もうあんたたち付き合ってんじゃないの?』


そんなわけあるかいっ!
と、否定しかけて飲んでいたホットの緑茶が器官にヒョッと飛び込んできて咳き込んだ。
ゲホゲホ咳き込む私の様子に、電話の向こうのてらみは楽しそうに笑っていた。


『こらこら、動揺しないの』

「付き合ってないからね」

『はいはい』


念を押してもてらみは全くもって話を聞いていないような、そんな生返事しかしてこない。
こいつに話すんじゃなかった、と今さらながら後悔した。


はぁ、とため息をついて生温いベタつく風を受けながらぼんやり海を眺める。
お昼休憩を例のごとく外のベンチで過ごしていた。
いつも隣にいるはずのパートの仁志さんは、そろそろ日焼けが怖いからと外で食べるのを控えるようになってきた。
だから最近は休憩は1人で外でとることが多い。


バタバタしている厨房からのんびりと波が引いては押し寄せる様を眺められる外に出ると、自然と私の心は安らいでいた。


『でも変人くんも男なんだから、その気がないなら帰りに襲われないように気をつけなさいよ?』


電話越しに昼間から物騒なことを言うてらみに、私は呆れ顔で「バカねぇ」と笑い飛ばした。


「そんな雰囲気になったことなんて一度も無いわよ。昨日なんて深海魚の話をひたすら一方的にされて、気づいたら家の前だったんだから」

『…………相変わらずなのね、彼は』

「そういうこと」


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