窓ぎわ橙の見える席で
ここ1ヶ月、毎日のように辺見くんは夜に定食を食べにトキ食堂に現れるようになった。
仕事が落ち着いてきた証拠だからいいことなのだけれど、閉店したあと私がお店を出るまで駐車場の車の中で待っていてくれるのだ。
非常に申し訳ないのだけれど彼は1ミリも気にした様子などなく、車のルームライトで手元を照らして本やら図鑑やら参考書やらを読んでいるので退屈しないと言う。
そのせいで、帰りの車での会話はほとんど彼がその日に読んだ本の内容になることが多い。
昨日は深海魚のブロブフィッシュとガラスイカについて延々と語られた。
ブロブフィッシュの見た目がかなりヤバいこととか、ガラスイカの透明感がどうとか、その場ですぐについついスマホで調べたくなるようなことを言ってくる。
それで思わず興味を持って聞いてしまうのだ。
彼のせいで微妙に生物に詳しくなりつつある私。
どうしちゃったんだろう。
『つぐみ、家に案内状来てたでしょ?同窓会の』
突然切り替わったてらみからの話題に、何のことかと面食らう。
「え?同窓会?いつの?」
『海明高校の。たぶん届いてると思うから、家に帰ったら見てみなさいよ。当時の生徒会の奴らが発起人になって開催することになったらしいよ?パレスロイヤルホテルで立食パーティーだって!行くっきゃないでしょ』
市内の中心地にあるそのホテルは、県内でも1、2位を争う一流ホテルだ。
結婚式場も備えてあり、料理もかなり美味しいというのは聞いたことがある。確かにちょっと行ってみたい。
「休みが取れそうなら行こうかな」
帰ったら案内状が来ているか確認しないとな、ととりあえずそう答えると、行く気満々のてらみに怒られた。
『何言ってるのよ!絶対に休み取りなさい!そんで、そこに変人くんを連れてきなさい!』