窓ぎわ橙の見える席で


翌日の夜、常連のサラリーマンに紛れて辺見くんがお店にやって来た。
いつ見ても冴えない彼だったけど、やはり気のせいとかじゃなく明らかに顔色が良くなったし、こけてた頬も少しばかりふっくらした。
とは言ってもまだまだ痩せ型の域は越えていないのだけれど。


「なんか先生、最近太りました?」


空良ちゃんが彼に注文を聞く前からさっさと先に「定食ひとーつ!」と私のいる厨房に声をかけ、その後で辺見くんへ質問していた。
畳み掛けるように涼乃さんも彼の元へと近づき、ニヤついた顔でうなずく。


「私も思ってたのよ〜!さては先生、いよいよ彼女が出来たのね!?」

「うそー!先生いつの間に!」


定食の牛丼を盛り付けながら、耳をダンボにしてホールの会話を拾おうとする自分が憎い。
夜のピークはとっくに過ぎ去り、オーナーなんか呑気にカウンターのイスに座って新聞を読んだりしている。


「友達にお弁当作ってもらってるんですよ、お昼ご飯用に。今までここでの食事しかまともに摂ってなかったので、その人のおかげでようやく人間らしい食生活になりつつあります」


特に間違ってなどいない、辺見くんの模範解答。
そうだそうだ、私は友達であって彼女ではないのだ。
頭では納得しているのに、ほんのちょっと胸がチクチクする。
なんじゃこりゃ。


「な〜んだ、友達なの?そういうのは普通、彼女じゃないとしてもらっちゃダメなやつですよ、先生」

「え、そうなの?」

「その友達って女の人?」

「うん、そうだよ」


空良ちゃんのアドバイスじみた言葉に即座に反応する辺見くん。


「だったらなおさら当たり前じゃないですか。きっとその友達、待ってますよ!先生からの告白!」


私は空良ちゃんの世にも恐ろしいアドバイスらしき言葉をかき消すべく、両手に持ったトレイを乱雑にカウンターへバンッ!と置いた。
あまりの音の大きさに新聞を読んでいたオーナーがビクッと肩を揺らす。


「定食出来ましたぁ!」


自分でも驚くほどの大声が勝手に口から出ていて、ほぼ怒鳴っているようなものだった。
何を動揺してるの、私!


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