窓ぎわ橙の見える席で
牛丼定食を受け取りに来た空良ちゃんは、私が手をすべらせて大きな音を立てたくらいに思っているのか、私のアタフタぶりは微塵も気にしていない様子だった。
むしろカウンター越しに、私にニコッと笑顔を向ける。
「つぐみさん。オーダーも落ち着いたし、こっちで先生と話しませんか?」
はい、余計なお誘いいただきましたっ!
断るのも変なので、行くしかないでしょう……。
気が重いながらも、空いた鍋だけシンクに置いて厨房を出る。
窓ぎわのいつもの席に辺見くんが座っているのが見えた。
テーブルに届けられた定食を食べようと、ちょうど手を合わせているところだった。
辺見くんには妙な力があるのかバイトの空良ちゃんは彼に懐いているし、オーナー夫婦も彼のことを気に入っている。
高校でお世話になった先生だからって、こんなに良くしてあげるものなのか?
それともみんな私と一緒で、単に世話好きなのか?
「美味しい!疲れた体に染み渡るよ」
ヘラッと気の抜けた顔で笑う辺見くんに、「どうも」と素っ気ない返事をしておいた。
「つぐみちゃんと先生って同級生なのよねぇ〜。お互い久しぶりに再会して変わったなぁって思うところとかあるの?」
涼乃さんが私や空良ちゃんのお冷やを注いでくれて、渡しながらそんなことを尋ねてきた。
冷たい水が入ったコップを握りしめて、ガツガツ牛丼を食べる辺見くんを眺める。
「辺見くんはこのまんまですね。なんていうか、自分の世界で生きてる感じっていうか」
頬杖をついて私が答えると、勢いよく食べていた辺見くんが箸を止めてウーンと首をかしげる。
きっと私の言っていることがよく分かっていないのだろうな。
彼の独特の雰囲気は自覚して出せるものではない。
すると、彼は口元にご飯粒をくっつけたままポリポリ頬をかいた。笑顔と共に。
「宮間さんも中身は変わらないよね。あ、でも高校の時より綺麗になってたからすぐに同一人物だとは気づかなかったんです、僕。そういう僕はオッサンですけどね。あははは」