窓ぎわ橙の見える席で


また、車の中にひとつ新しい変化を発見した。
シートに座布団が敷かれている。
薄くて低反発の、なかなか座り心地の良いものだった。


カーステレオが直って、シトラスの香りがする芳香剤が置かれ、座布団が増えた。


そんな小さな変化に気づけるほど、私は彼の車の助手席に毎日のように乗っているという事実に我ながら驚く。
これじゃまるで本当に付き合っているみたいじゃないか、と。


お腹いっぱいに満たされて幸せそうな辺見くんは、ラジオから流れてくる昔流行った音楽に合わせてフンフン歌ったりしている。
とても楽しそうだ。


生物をこよなく愛し、私に興味があるんじゃなくて私の料理に興味を持つこの男。
何か考えているようで、たぶん何も考えていないこの男。
いつからかヤツに振り回されているような気さえした。


「明日の定食とデザートは決まってるの?」


ここ最近の口癖はいつもコレだ。
どうやら翌日のメニューを先取りして聞いておきたいらしい。


真っ暗な道路をヘッドライトが照らす。
見慣れた景色が広がるのをなんとなく目で追いながら、ボソッと答える私。


「タンドリーチキンとイチゴのパンナコッタ」

「美味しそうだね〜。どんな料理なのか分からないけど、宮間さんが作るなら間違いなく美味しいんだろうなぁ」

「そんなの食べてみないと分からないわよ」

「僕には分かる」


もう返事を返す気にもならない。
どこから来るのか、その自信は。

< 83 / 183 >

この作品をシェア

pagetop