窓ぎわ橙の見える席で
「そう」とか「うん」とか、死んでも言うもんか!
その手には絶対乗らない!
もうすぐ30歳、ここまで生きてきていくつか恋愛も経験してきた。
男女の駆け引きってやつは非常に苦手なのだ。
唇を噛みしめながら辺見くんを睨みつけると同時に気がついた。
彼はボケッとした顔をしていて、駆け引きだのなんだの考えているようなものでは一切ない。
そうだった、この人はそういう人だった。
恋愛の駆け引きなんてするわけがない。私に興味が無いのだから。
ただ単にこうして2人でいることが増えてきたし、私がわざわざ同窓会に一緒に行きたいとか言うから不思議に思って聞いてきただけなんだ。
なんで私がこんなことを意識しなくちゃならないのよ!
無性にイラついたので、一緒にいて楽しいかどうかの質問はスルーした。
「同窓会に参加決定の辺見くんにお願いがあるの。次の日曜日は空いてる?」
「えっ!?僕、参加するの?」
「そこは決定事項なので質問はしないで。日曜日は空いてる?」
「日曜日はいつも猫と寝て過ごすよ」
「それって空いてるってことよね」
切り返しが読みづらいこの手の人に、心理戦を持ち込もうとしたって無駄に決まっている。なので同窓会に関しては強引に参加させることにした。
もうこうなったら、お弁当を作ってあげていることを最大限に利用することにしたのだ。
「いい?お弁当制度を廃止させたくなかったら、次の日曜日に私と買い物に行きなさい。同窓会に着ていく服を選ぶわよ!」
「か、買い物?」
明らかに戸惑っている辺見くんからは見えないだろうが、「そうよ」と助手席でふんぞり返った。
「そんなボロい服で行ったらホテルの入口で止められちゃうもの。約束ね」
「そもそも同窓会に参加するつもりなんて……。あれ、宮間さん日曜日は休みなの?」
「次の日曜日、たまたま休みなの」
「う〜ん、分かった。じゃ日曜日デートしよっか〜」
デ、デートだとっ!?
動揺を悟られまいと慌てて窓の外に視線をずらした。
あまりにも久しぶりに聞くそのワードは、恋愛ご無沙汰の私にはだいぶパンチが効いた。
辺見くんはどういうつもりでそんなことを言ってくるのか。
もしかしたらどんなつもりもなく、適当に言っただけ?