窓ぎわ橙の見える席で
ゲホッとみっともない咳払いをしてから、仕切り直して一息つく。
「とにかく、日曜日は買い物ね。ちゃんとお金持ってきて」
「分かった。ついでに食事もごちそうするよ。日頃のお礼も兼ねて」
「…………ありがとう」
また焼きそば専門店に連れていかれるのかな。
でもまぁそれなりに美味しかったし、どこでもいいか。
素直になれないアラサー女を乗せて、辺見くんの車はいつの間にか私の自宅の近くまで来ていた。
路肩に車を停車させてハザードランプをつけた辺見くんは、後部座席から黒いリュックを引っ張ってくるとその中からA5サイズほどの手帳らしきものを取り出した。
そして、ルームランプを灯してボールペンでなにやら手帳に書き込んでいる。
「僕、忘れっぽいからちゃんと書いておく。買い物が次の日曜日で、来月の第二土曜日が同窓会……で合ってる?」
「うん、合ってるよ」
ひょいと手帳を覗き込むと、ポツポツと予定が入っているのが見えた。
ほとんどが学校行事だったり、仕事で終わらせなければならない締切日を記載しているらしかった。
狭い車内の薄明かりのルームランプの下で、私と辺見くんが顔を寄せ合って手帳を見ているというこの状況。
ハッとして顔を上げると、辺見くんは手帳など見ずに私を見ていた。
瞬時にドックン!と心臓が震えるのが自分でも面白いくらいに分かった。