窓ぎわ橙の見える席で
車を降りて虫を放してやった辺見くんは、同じく助手席から抜け出して歩道でヘロヘロしている私を見て笑っていた。
「宮間さん、大丈夫?」
「だ、だ、大丈……夫……」
「あれはホタルガかな〜。いつから宮間さんの体にくっついてたんだろうね」
「さ、さぁ……」
小さな虫ならどうにかなったかもしれないけれど、5センチの蛾はキツい。
ショックが強すぎて足に力が入らない。
辺見くんの手が伸びてきて、肩を抱くようにして私の身体を支えてくれた。
「ごめんね、もっと早く気づけば良かったよ」
「ううん、ありがとう」
大きな蛾を間近で見てしまったドキドキ感と、肩を抱かれるドキドキ感。どっちのドキドキが強いんだか、さっぱり分からない。
「家、すぐそこだから。もう平気」
「そう?」
辺見くんは私から手を離すかと思いきや、向きを変えて後ろから前に回り込んできた。
なんだなんだと思っているうちに、彼は身を屈めて私の胸元をまじまじ観察し始めた。
夜道で何をしているのか、この変人男は!
浅めのVネックのサマーニットを着ているので露出はそんなに無い。
でもよくもこう女性のデコルテをジロジロ見れるなぁと呆れる。
「あのー、辺見くん」
「ん?」
「…………何してるの?」
「鎖骨を見てたの。さっきも感じたけど、綺麗だなぁと思って」
「………………変態!」
これが職場なら完全にセクハラだ!
持っていたバッグでヤツの肩を叩いてやった。