窓ぎわ橙の見える席で
「ね、夜はどこか食べたいお店とかある?」
辺見くんの話題は食事のみ。
気持ち悪い微生物の話をされるよりは何倍もマシだけど、彼の頭の中は食事か生物のことくらいしか無いんじゃないかと思う。
というか、夜まで一緒にいる気でいることにビックリした。
いやいや、目的はあなたの服を買うことですからっ!
こうなったら少しいじめてやるかと切り替えて、コーンスープを飲みながらジロリと目の前の彼を眺めた。
「服買ったら解散でしょ?それともとっておきのデートプランでも考えてるわけ?」
「僕はそういうの苦手だからなぁ。女の子と2人で出かけるのも何年ぶりだろう」
「え、今まで彼女いたことあるの?」
「あるよ。昔はよくミドリと出かけたっけなぁ」
ミドリ……。聞いたことある名前なんですけど。
さてはこいつ、私のことをバカにしているな?
「ミドリって辺見くんが高校の時に飼ってた猫の名前よね。言っておきますけどそれは彼女にカウントされないからね」
「あーそっかぁ、残念」
くっそー!
ヤツは人をおちょくる天才だ。
掴みどころのない笑顔で簡単に適当なことばかり言うんだから。
微生物のミドリムシから名前を取ったって高校時代に私に話してくれたことなんて、きっと覚えていなかったのだろうな。
「辺見くんが飼ってるって猫はミドリなの?」
「ううん。ミドリは僕が大学生の頃に死んだよ。今はアンっていう名前の猫を飼ってるんだ」
「へぇ、可愛い名前!赤いリボンとか首につけてそう」
単純に名前からメスを想像していたのに、辺見くんは首を振った。そうじゃないよ、と言いたげに。
「アンはオスだよ。微生物のアンフィレプツスから取ったの」
「………………出た、微生物」
得意の訳が分からない聞いたことのない横文字の名前をスラスラと答える姿は、なんというか当然と言えば当然だけどさすがの生物マニアだ。
私はその、聞き取れなかったアンフィなんとかの名前をもう一度教えてもらおうという気にもならない。