窓ぎわ橙の見える席で
いつだったか、あまりにも微生物の話を楽しそうにするから「アメーバとかミジンコくらいしか知らない」と話したら、嬉しそうにリュックをゴソゴソし出した辺見くんが、
「宮間さん、きっと学校の教科書レベルの簡単な顕微鏡から見た微生物しか知らないだろうけど、体の小さい生物って拡大するとかっこいいんだよ!とっておきの見せてあげるよ!」
と言って取り出したファイル。
何かしらと思って中身を開いて失神するかと思った。
クマムシやらカイコガの幼虫やらの超スーパー3D顕微鏡みたいなもので写した、細かい毛とか皮膚がしっかり見えるモスラみたいな写真。
お世辞にも「わー!ほんとだ!かっこいい!」とか絶対言えない。もはやドン引き。
渡されたファイルを躊躇うことなく投げ捨てたのを思い出した。
注文して届いたハンバーグランチをモリモリ食べる彼を見て、不思議に思った。
なんで私、この人と一緒にいるんだろうって。
貴重な休みの日、しかもなかなかもらえない日曜日の休みに辺見くんとランチして買い物って、そんなのおかしい。
別に私に気を使って楽しい話をしてくるわけでも、張り切ってオシャレな服を着てくるわけでもないこの人。
下手するとてらみなんかは「隣を歩くのも無理!!」とか言いそうな容姿と中身。
だけど私は、何故なのか彼に興味がある。
目が離せないのだ。
「ところで辺見くん。ちゃんと同窓会の案内状は確認した?参加の返信してくれたんでしょうね?」
微生物とか猫とか、むしろ買い物うんぬんよりも大事なことを忘れていた。
一番重要な確認事項があったじゃないか。
それを口にしたら、辺見くんは少し拗ねたように肩をすくめてポリポリ頬をかいた。彼のお決まりの仕草だ。
「言われたあの日、案内状をポストから出して参加の返信出しておいたよ。僕は同窓会なんか行かなくたっていいのにさ。あんな高い会費払うくらいなら宮間さんの定食を食べたかったよ」
「ス、スミマセン……」
「それにわざわざ服まで新調しなくちゃいけないんだもの」
「ス、ス、スミマセン……」
「罰として、もう宮間さんの体に虫がついてても取ってあげないよ」
「そ、それだけは……!」
両手を合わせると、辺見くんは楽しそうに笑っていた。
釣られて私も笑う。
そして気づく。
あれれ、なんだかちょっといい雰囲気かしら〜なんて。