窓ぎわ橙の見える席で
ほら、よく映画とかドラマとかであるじゃない?
ものすごーくハンサムで身長が高くて、足とかもめちゃくちゃ長いスーツが良く似合う男の人がいて。その人が高級ブランドのお店の試着室の前のソファーかなんかに座っている。
それで、おずおずと地味めの女の人がそろーりと試着室のカーテンの隙間からチラリと彼を覗くわけ。
彼はスッと立ち上がり、意地悪そうに「いいから出てこいよ」とかなんとか言って、彼女の手を引っ張るんだ。
鮮やかな赤いワンピースとかそんな感じの普段は絶対選ばないし着ない服を試着した女の人は、とっても恥ずかしそうにモジモジしている。
「こんなの私には似合わないわ」
「何言ってるんだ、鏡を見てみろよ」
「地味な私には……」
「ほら」
彼が彼女の後ろに立ち、鏡にその姿を映して━━━━━。
背後でそっと囁くのだ。
「よく似合ってる」
………………と、まぁそんなチープな妄想を繰り広げている私の目の前にいるのは、非常に冴えない痩せ型の男。その名は辺見甚。
ハンサムやイケメンなどとは程遠い顔をしており、味がある顔といえば少しはフォロー出来るだろうか。
「言われた通りのものを試着したけど」
と、別にまごつくこともなく彼はシャッと試着室のカーテンをおおっぴらにオープンした。
「あらぁ、ちょっとビックリ。案外いいかも」
目を丸くして素直な感想を述べた私の隣には、いつの間に来たのか興奮気味の同じくらいの年代と思われる女性店員がいた。
彼女は辺見くんの服を一式見立ててくれたプロの店員だ。
ここは駅前のファッションビルのメンズフロア。
プチプラでもなく、だからと言って高級というわけでもない、そこそこ名の知れたメーカーのお店に足を踏み入れた私と辺見くん。
当然ファッションについて興味など無い彼に代わって私がチマチマとコレがいいだのアレがいいだの選んでいたら、この女性店員が颯爽と現れたのだ。
「私がお手伝い致します」と。