窓ぎわ橙の見える席で
事情を説明した私の話を聞いた店員さんが、「ホテルで行われる同窓会という名の立食パーティーで浮かない服装」という注文を受けて選んでくれた一式。
淡い水色の綿麻の風通しの良さそうなシャツは、袖を折り返すとギンガムチェックになっていてオシャレ。
上に羽織る用のスウェット素材のネイビーの薄手のテーラードジャケットは、カッチリした素材じゃないだけにカジュアル感はあるけどジャケットだから気にならない。
パンツは細身だけどちゃんとゆとりのある綺麗なシルエットのベージュのもの。これも裾を折り返すとさりげなくチェック柄がチラ見えする。
靴は焦げ茶の紐のついた革のものを合わせた。
一体あなたはどこの誰ですか?と聞きたくなるほどに大変身を遂げた辺見くんを前にして、私はなんと言えばいいのかと悩んだ。
それを吹き飛ばすかのごとく、店員さんがパチパチと手を叩いて飛び跳ねる。
「お似合いです〜!かっこよくなりましたよ〜!どうしてもっと早く買い物に来なかったのか問いただしたいくらい〜!改造するのが楽しくなっちゃうくらいのビフォーアフターですね〜!」
「生まれてこの方、かっこいいなんて言われたことないです。どうもありがとうございます」
律儀に丁寧に頭を下げる辺見くんを盛り上げるように店員さんはキャッキャと喜んでいた。
「これならホテルの立食パーティーでもみなさんに溶け込めますね!彼女さんったら優しいですね〜、ちゃんとこういうのに付き合ってくれるんですから」
「彼女じゃありま……」
「宮間さん、どう?」
恋人関係を否定する前に彼に感想を求められたので、仕方なく褒め言葉を絞り出す。
「素晴らしいわ。きっと素材がいいのね!その格好でいたら学校でもモテるわよ!」
「え〜、僕は生徒にモテたいわけじゃないんだけどなぁ」
ボリボリと頭をかく彼の姿を見て、唯一惜しい部分を発見した。
いや、発見というよりもずっと思っていたことだけれど。
「あとは髪の毛切ればもっと素敵になると思うけど、美容室探す?」
「ううん。面倒くさいからそこまでしなくていいや」
辺見くんは最後の砦の鬱陶しい髪の毛だけは守り抜くことを決意しているのか、それだけは譲ってくれなかった。