窓ぎわ橙の見える席で
全身コーディネートをごっそり購入した(正確には購入させた)辺見くんは、私のススメで(正確には強制的に)試着した服をそのまま着てお店を出た。
これで並んで歩いても恥ずかしくないぞ。
しめしめ、とニヤつく私をよそに、辺見くんがふぅっとため息をついた。
「イマドキの服はお高いんだね。服なんていつもネットでセールの時期に安いの買ってたよ」
「メンズブランドでは平均くらいよ、このお店の値段は。そうだ、今日着てきた服、捨てちゃいなさいよ。どれもボロボロだっだじゃない」
「まだ壊れたわけじゃないし、もったいないよ」
「裾がほつれたり、ボタンが取れたりしている服は壊れたも同然よ」
「うーん、そっかぁ。じゃあ検討する」
これだけ言っても捨てるという結論に至らず検討するにとどまるあたり、私の言葉なんてちっとも頭に入ってないんだろう。
彼には彼なりのこだわりがあって、それに対する頑固さもなかなかのものだ。そういうところは彼と話すようになって数ヶ月で分かってきた。
「これからどうする?映画でも観に行く?」
「………………………………は?」
すっかり帰る気満々で南口のコインパーキングを目指して歩いていた私は驚き、思わぬ誘いに少し遅れて歩いている辺見くんの方を振り返った。
彼はキョトン顔でこちらを見つめている。
「え?映画とかあんまり観ないタイプ?それとも家でレンタルしたのを観るタイプ?」
「いや、映画は好きだけど」
「じゃ行こうよ。やること無いし、夜までまだ時間あるし」
「ほんとに夜もどこかご飯食べに行くの?」
「行かないの?僕と一緒じゃ退屈?」
「べ、別に……」
曖昧な答え方をして、行き先を変更する。
駅から少し歩いたところにある商業施設の中に映画館が入っているので、そこに向かった。
「僕と一緒じゃ退屈?」って、どんなつもりで聞いてきてるのよ。辺見くんはそんなつもりはなくても、こっちからしたら答え方に困る質問だっての!
私たちは小中高と確かに同級生であり、青春時代を共にした仲間だ。
しかし接点は高2の1年間だけで、しかもよく話したのも隣の席だった1ヶ月半のみ。
よくよく考えたら、『勝手知ったる仲』ってわけじゃないのだ。
だからなのか、余計に素直に返答出来ない自分がいる。