窓ぎわ橙の見える席で
映画を観終わって外に出たら梅雨の曇り空は暗くなっており、間もなく日が沈むというところだった。
天気予報ではもうすぐ梅雨明けというくらいなので、日も長くなっていて夜になっても明るい。
どよんとした雲の向こうに赤紫色のなんとも言えない夕日が見えた。
それを正面に見据えて歩きながら、辺見くんがぼんやりとつぶやく。
「こういう夕焼けよりも、カッと街を包み込むオレンジ色の夕焼けの方が僕は好きだなぁ」
「オレンジ色?」
「うん、橙色って言うのかな。学校の職員室に差し込む色がすごく綺麗でね、1日のほんの少ししか無いその時間帯が僕の癒しなんだ」
へぇ〜。辺見くんって生物にしか興味が無いと思っていたけど案外ロマンチストなのか?
夕焼けが好きだとか綺麗だとか癒しだとか。
そんなの言うなんて意外だった。
「あ、そうだ。ぜひ宮間さんと一緒に行きたいお店があるんだよね。夜ご飯はそこでもいい?」
「え、どこ?」
「フレンチレストラン」
辺見くんが言い出した行きたいところというのを聞いて、思わず足を止めて彼をまじまじと見つめた。
返事をしない私に、彼は目を細めて微笑む。
「僕はフランス料理のことはよく分からないんだけど、わりと人気のあるお店らしいんだよね。宮間さんなら働いてたこともあるし、味の査定も出来るでしょ?」
「味の査定って……、そんなたいそれたこと出来ないわよ。たかだか8年で評価なんて」
「好きなんでしょ、フランス料理」
「たまたま就職先がそういうところだっただけよ」
なんなんだ、この男。
一体何をしたいんだ?
警戒する私に、辺見くんはニッコリと柔和な笑顔を向けて
「まぁ、理由はどうでもいいから行こうよ。予約してあるから」
と言った。
「よ、予約!?聞いてないんだけど!」
「あれ、言ってなかった?ごめんごめん」
スタスタ歩き始めた彼の、ちょっとオシャレになった後ろ姿を慌てて追いかけることになった。
いまいち意図を理解出来ないままに。