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春が来た 高瀬 蓮

 「もうこんなにあったかいのか」
新居の庭に寝転びながら俺は空を眺めていた。
都会の空も田舎と同じで、色は青くて雲は白い。
時々通る飛行機雲が少し珍しいけれど。

北海道から引っ越してきたのはつい先日のことだ。
親の仕事の都合で東京にずっと住むことになり、新築の家を買うことになったからだった。
生まれてから長年お世話になった地元の街とはさよならして、二年生から新しい高校に編入することになっている。
人生で初めて地元を出ることへのワクワクもあったけれど、物心ついた頃からずっと一緒にいた幼馴染たちと離れることだけは寂しかった。
北海道で通っていた高校は人数が少なくて、クラスのメンバーもほとんどが小学生からの幼馴染だった。
だからこそ唯一北海道を出たくない理由がそれだった。
二年生からの編入となると周りのみんなは一年生の時から友達同士の人ばかりだろうし、物心ついた頃から幼馴染のみんなと過ごしてきた俺にとって、友達はいつの間にかいるものだったし作ろうとしたこともなかった。
でも今回は違う。全く知らない環境で新しい人間関係を作っていかなきゃならない。
明日から始まる学校のことを考え、ひたすら不安が頭を巡っていた。
「はあ…」もう何度目だろう。ため息がこぼれる。
とりあえず何も考えたくなくて目を閉じた。

目を閉じて眠りに落ちそうになったいたとき、ポケットの携帯が鳴った。着信だ。
相手は高校の時同じクラスだった香織だ。
「もしもし」
「蓮ー!元気かあー!?」
相変わらずうるさい香織の声で一気に目が覚めた。
「なんだよいきなり…元気だけどさあ」
「よかったよかった、てっきりナイーブになってるのかと思ってさ」
「別になってねーよ、ってか昨日も電話したばっかりだろうが」
「そっか、そうだよね」
そう言って笑う香織の声に自然と自分も笑えた。
「あのさ、実は話があるの」
突然香織はいつになく深刻そうな声でそう言った。
「え、どうしたんだよ」
「実はね、最近彩音が元気なくてさあ…」
「彩音が?」
彩音は一番昔からの幼馴染で、人生のほとんどを一緒に過ごしてきた。
「彩音から何か聞いてる?」
彩音は天真爛漫で元気がないところなんて見たことはなかった。
でも、北海道から俺がいなくなることを一番寂しがっていたのも彩音だった。
「何も聞いてないけどなあ…多分俺がいなくて寂しいんだ!」
「んんんな訳ねーだろうがバカ!」
スピーカーが割れるほどの音で響いた声に、思わず耳を離した。
それは彩音の声だった。
「は!?彩音!?どういうこと!?」
「いやいや、香織の携帯から電話してみて蓮が元気かどうか確かめようとおもったの!そしたらまさかの、俺がいなくて寂しいんだ!なんて言いやがるからびっくり!ねー香織!」
そう言って二人は電話越しにゲラゲラ笑っている。
よく考えてみれば二人がやりそうなことだ。
「なんだよ、そういうことかよ」
俺も懐かしくなって笑ってしまった。
「なに、まさか本当に私が寂しくて元気ないと思ったの?そんなわけないじゃーん!」
彩音は相変わらずウザいっていうかなんていうか。
「はあ、とりあえずお前ら今日から学校だろ?早く行けよ…」
「彩音!やばい!新しい先生新人の上田先生だって!」
香織が電話の向こうで彩音にそう言っているのが聞こえる。
「え!?それはやばい!蓮ごめん、ちょっと行ってくるわ!」
「はいはい、お元気で」
「蓮も頑張って可愛い彼女でも作りなよ!そんじゃまた!」
電話はそこで切れた。
「なんなんだよあいつら…」
でも、嬉しかった。
やっぱり幼馴染の声を聞くと落ち着く自分がいた。
「はあ…」
それと同時に明日からの学校がまた不安になった。
俺はやっていけるんだろうか。
とりあえずなにも考えたくなくて、目を閉じた。
東京の春はあったかい。
春の風に吹かれて、いつの間にか眠ってしまった。
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