顔も知らない相手
♯02
「こんばんはー」
今日もいつものようにチャットに遊びに来ていた。
時間は20時ぐらいだろうか。
「おーまた来たんか。暇人め」
そしていつものように話しかけてくるのは翔(かける)という男。
このチャット部屋の主だ。
翔は本名なのかハンドルネームなのかさえ私は知らない。
そういう私の本名は新田 和奏(にった わかな)という。
しかし本名の和奏は少し読みづらいということもありハンドルネームを使っている。
ハンドルネームはsoraという。
なんとなく響きが好きで空という広くて自由な感じが気に入っている。
「そーいう翔も毎日私より先にいて暇人じゃん。」
少しふくれっ面になりながらもキーボードを叩いている自分に気づき
こうやって言い合っている時間が楽しいことを実感する。
翔と話すようになってもうすぐ1年になるのかな。
飽きもせず夜は大体チャットに行くようになっている。
行かない日はテスト前ぐらいかな。
「いや、うん、まぁ確かにww」
素直に認めるのかよ。と内心つっこみながら返事を打つ。
今このチャット部屋にいるのは翔と私ともう一人。
優梨。ゆうり?って読むのかなー
「優梨ちゃん!初めましてー」
いきなりチャット部屋に入って翔にしか話しかけてないことに気づき優梨ちゃんに話を降ってみる。
「初めましてです!よろしくお願いします^^」
あ、優しそうで印象のいい女の子だ。
「へーーじゃ私たちより一つ下なんだ」
話を聞いていくと歳は私たちより一つ下の15歳らしい。
私たちというのは翔も私と同い年の16歳と、この間聞いて知っていたから出た言葉だ。
「優梨は生徒会に入ってんだよなー。成績優秀!」
翔が自分のことのように自慢する。
その感じになぜか胸がざわついた。
「そんなことないですよー。でも勉強は嫌いじゃないですけどねw」
勉強が嫌いじゃないって人いるんだ。
私なんてめちゃくちゃ嫌いだし頭悪いからなぁ
勉強をしなくて分からないから嫌いなんだろうけど…。
そんなことを考えていると話は優梨と翔の間で進んでいた。
「翔もすごい勉強出来るって永沢くんが言ってましたよ」
「永沢が言うことは信じない方がいいからなww」
あれ、優梨ちゃん翔って呼んでる…。
それに永沢って誰だろう。
翔と優梨ちゃんってお互いのこと結構知ってるのかな。
なんかこの感じ嫌だ。
翔の近くにいる女の子なんて優梨ちゃんだけじゃない。
ここはチャット内だしリアルにはもっと近い女の子がいるだろうし、
でもこんな間近で女の子とじゃれてるのを見るのはすごい嫌だ。
こんな嫉妬みたいな気持ちが出てくるなんて。
いやいや待て待て。顔も本名もほとんど何も知らない男にこんな変な感情持ってどうする。
惚れやすいにも程があるでしょ私!!!
そもそも翔のどこにそんな惹かれる部分があるの!?
ちょっと冷静に考えろ。
「おーーーい。soraさん??いねーの?」
思考がトリップしていた私はパッと我に返りパソコンの画面に目を向けた。
翔がさっきから発言しない私を気にかけて呼んでくれているようだ。
「あ、ごめんごめん。トイレ行ってたら話進んじゃっててww」
適当に返事を返しながらまだ頭の隅にある感情を押し殺す。
「soraさんは勉強出来なさそうだよなーww」
急に翔が意地悪そうに話をふってきた。
「あ、そーいうこと言うんだー。私だってめちゃくちゃ優秀だかんね」
はい。嘘です。
「ぜってー嘘だw soraさん馬鹿っぽいもん」
その通りです。
だからといって馬鹿と認めるのは悔しい。
ちょっとだけ見栄張ってもいいでしょ?
「翔の勉強できる節もめちゃくちゃ怪しいからね!絶対私より馬鹿だわww」
喧嘩を売られたら買うしかないっしょ。
私も翔に負けず憎たらしい返事を返す。
「いやーー俺別に勉強できるとか言ってねーけどsoraさんには余裕で勝てるわ」
またもやこの男はそんな憎たらしい態度を!
返事を打っている途中でまた翔から返事が来ていた。
「来週ぐらいテストあるって言ってたじゃん?俺んとこもあるから勝負しよーぜ」
げっっ!それはなかなかまずい気がする。
私ホントバカなのにバレるじゃん。
でもここで引き下がるっていうのも負け認めることになってかっこ悪いし。
「いいけど、ボロ負けして後で後悔しても知らないよ」
あーーーー言っちゃった。
私のバカ。
「そのセリフそのまんま返すよ。あ、負けたら罰として1つ言うこと聞くってことで」
なにそれ。また変なルール加わってるよ!
「おもしろいね。翔に何してもらおっかなー」
また強気発言で返しちゃったよ。
なんでこんな挑発にまんまと乗っちゃうかなー
「ふふwwお二人ホントおもしろい。仲いいんですね」
今まで黙って聞いていた優梨ちゃんが間に入った。
翔と二人で話しするのに夢中だったから優梨ちゃん楽しくなかっただろうな。
申し訳ないことしたな。
「俺とsoraさんはラブラブだからな」
翔がそんな発言をしたとき私の手はピタッと止まった。
なんで冗談でもそういうこと言うのかな。
こういう時はチャットで顔が分からないことに感謝だ。
今顔を見られたら真っ赤になっているのを馬鹿にされかねない。
「バカじゃないの。別に仲良くないから(-ε-)」
こんな発言にいちいち動揺しちゃダメだ。
こいつは何にも考えないで言ってるんだから。
サラって受け流すのが一番だ。