顔も知らない相手

♯08


あれから3日ほど翔とメールのやりとりは続いた。
その会話の中で分かったこと。
・部活はしていない。帰宅部。ただし運動神経は良くて試合の時期になると臨時で駆り出されることがあるらしい。
・ギターを弾く。友達がバンドに誘ったことから始めるようになった。
・住んでいるところは同じ関西の同じ県。しかし電車で行こうとすると片道3時間はかかるぐらいは離れている。

ただこれだけだ。

好きな人はいる?彼女はいるの?

1番聞きたいことは結局聞けなかった。

いつものように言い合ったりバカなこと話したり…そんなことは出来るのに。

そしてこのままメールを続けるのもめんどくさいと感じられるのが怖くてキリのいいところでやめた。
あくまでも私は翔のことなんて何も思っていなくてただの友達のように振舞っていたいから。
冬華には回りくどいし意味わからん。と鼻で笑われたがそういう性格なんだから仕方がない。

メールを送るのはいつも私からだ。
翔から来たことは一度もなかった。
アホみたいな話はたくさんできるのに少し踏み込むと翔は一歩引くということに気づいたのはチャットからメールに変わって半年ほど経った頃だった。
私はあまりメールして嫌われたくないという気持ちがあり1ヶ月に1度ぐらいしか送らなかったので半年といってもメールの回数は数える程だ。
そんなやり取りの中で『俺はsoraさんと赤い糸で結ばれてるのかもしれない!』なんて冗談をぶっ込んでくる男だ。
なのに同じ県という話になったとき私が『じゃぁどっかで会うかもね』と送ると翔は『いやー会うとかはいいわ』といつもの様子とは違いなにか線を引かれたみたいだった。

翔のことが分からない。でも向こうは分かって欲しいとも思っていないのだろう。
自分の気持ちが相手に伝わる前から拒否された気分だ。

そう感じてこのまま連絡を取っても何も変わらず私は彼しか想い続けることが出来なくなるような気がした。
向こうは私に関して何も思っていないのだから自分から距離を置くことは簡単だ。
私は自分の中で翔への恋心がこのまま膨らんで行く前に連絡を取ることをやめた。

「へぇー。意外。和奏は一生報われへん恋にのめり込むかと思ったわ」
私の決意を冬華に打ち明けた後の一言目がこれだ。
ほんとに失礼なやつだ。
「報われへんとか決めんとって。」
私は頬を膨らませながら無駄なあがきをする。
「だって和奏も報われへんと思ったから連絡取らへんとかいう結果に落ち着いたんやろ」
それを言われればそうなるけども・・・。
私がしゅんとしたのを見て冬華はいつもどおりの明るい声で「次の恋さがせー」と肩を組んできた。
冬華なりの励ましでその不器用な優しさに少し嬉しく思う。

「てか和奏って西岡くんと仲いいじゃん。なんかないの??」
西岡悠大(にしおか ゆうだい)同じクラスで家も近所で親同士も仲がよかったので小さい頃から遊んでくれたり相談なんかしたりもする仲のいい男友達だ。
思春期になると周りは仲のいい男女を見ると冷やかしてくるものだが私たちも例外ではなくクラスの男子からよく冷やかされた。
それがすごく嫌で悠ちゃんに話しかけることが減ったが悠ちゃんは「言いたい奴には言わせとけばいい。」と変わらず私と接してくれた。
私が男子にからかわれているとわざと男子を挑発するようなことを言って自分に矛先を向けて私を庇ってくれることもあった。
すごく優しくて頼れる兄のような人だ。
「なんもないよー。面倒見てくれる兄みたいな人かな」
つまんなーいと冬華があっさり引いたのは恋愛要素が全く感じられないと判断したからだろう。
最近は悠ちゃんバイトして忙しいって言ってたし邪魔しちゃダメだと思って遊びにも行ってなかったな。
悠ちゃんには年の離れた妹がいて今小2の8歳で私とよく遊んでいたので仲がいい。
久々に会いに行ってみようかな。なんて思ったり。
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